第6話 羅刹
オニの群れの映像が流れはじめた。
オニヒコは巻物に映し出された角を生やした同胞たちに笑うしかなかった。
凶悪で醜悪で、互いに殺しあう悪鬼。
「ぐぶぶぶ」
「自分のほうが男前だ、そうです」
呆れたようにフブキが通訳した。
サクヤはくちびるにうかべた微笑でかえした。
<羅刹国>
フブキは映像に付された神代文字をそう読んだ。
「我らはみんな国を失った者たち……か」
フブキが独りごちた。
口にしてからそれが自分ではなく、オニヒコの思考だと気づいた
(おれたちの国をつくろう)
オニヒコは立ち上がった。
悲鳴があがった。
薮から必死の形相でツグミが飛び出してきた。
一拍おいて笹を飛び越えてきたのものがあった。
虎だ。
山の王にして捕食者の頂点。
鉤爪が背負った矢筒をとらえツグミを引き倒した。
咆哮が山を震わせた。
オニヒコが咆えていた。
ためらうことなく身構えた虎に突進していく。
虎の前脚が首をとらえたが、オニヒコの勢いは止まらない。
組みついてツグミから引きはがす。
オニヒコの巨体の、さらに倍はある巨獣にのしかかった。
虎の後脚がはねのけようと腹を掻いた。鎧が音を立てて裂けた。
フブキが太刀を抜いて駆けつける。
すでに虎の頚部はのけ反るようにへし折られていた。オニヒコの膂力の凄まじさだった。
ふるえのまだおさまらないツグミをつまみあげると、オニヒコは噛みつきそうな勢いで怒りはじめた。
「虎は固い、臭い、まずい……」
対照的にフブキが静かに伝えた。
「こんどは熊にしろ、とさ」
ツグミは安堵とみじめさに涙と鼻水が止まらなかった。
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