第3話 飛行戦車

焚き火で暖をとるフブキ。魚の干物をあぶっていた。

(捲土重来を期すべきか、それとも難をさけて別れるか。あの化け物が崖から落ちたぐらいで死ぬはずはないが……こっちは命がいくつあっても足らねぇ)


「オニヒコはいないぞ」

 太刀に手をかけ、闇に向かって告げる。


「なぜ探さない?」

 森の闇から炎のとどく範囲にはいってきたツグミ。


「この夜中にか?おまえのような蛮族といっしょにするな」


ツグミは馬鹿にしたように鼻を鳴らし、さらに尋ねた。

「きょうの仮面のやつらは何者だ?」

「やつらの狙いはオニヒコだった。追放されても王位継承権はあるということさ」

 オニヒコと呼び捨て干物にかぶりつく。



「オニヒコの弟か?」

 ツグミは問いをかさねた。

「いや、継母のほうだろう。ありゃ毒婦だ。霊廟が崩れたのだって真相はあやしいものだ」


「悪党の嗅覚かい」

 ツグミは鼻に皺をよせ、ガロウの前に割れた兜を転がした。

「……あした、ガロウにさがしてもらえ」


ガロウは主人の染みついた匂いを嗅いでいた。


「降りていったのか。くっくっく、まるで心配しているようじゃないか」

 面白そうにからかう。


「生きてなきゃ殺せないからね」

 立ち去りかけてフブキの揶揄に言いかえした。

「それにおまえよりはいい奴だ」


「こいつはケッサクだ!ツグミ、あの化け物のどこがいい奴なんだ」

フブキが大笑いした。

「殴られすぎてバカになったか?」


「ああ、イヤというほど殴られたよ!一族も殺され復讐しなきゃ気がすまない!けどね、あいつは王族も賤民も関係なく、だれでも殴った」


「やっぱり頭がおかしい。それは乱暴者だからだ」

「弱いものいじめのフブキよりましだ」

「ぐっ……こいつ」

フブキは言葉につまった。カッとなり太刀の柄に手をかける。

「やる気かい」

 ツグミは巨木の陰に隠れた。

 フブキの赫気は危険だった。


 矢筒に手を伸ばし、そっとつぶやいた。

(オニヒコ、どこいる)




ガロウの両耳がピンと立った。なにか察知したらしい。

 

二人ともそのガロウの変化に気づいた。


 上空から一帯を照らす強烈な光源。

「なっ!?」

 目もくらむ光に手をかざすツグミ。


「飛行戦車っ!」

 フブキは悲鳴をあげ、窪地に身を投げた。

 その瞬間、なにかが撃ちこまれ、爆発がおきた。


 フブキが飛行戦車とよんだ光源は上昇し、月に吸い込まれるように消滅した。




この時代、天の羅摩船ががみぶねや天の鳥船、天の浮船といった記述が『古事記』その他に出ている。

 また古代中国の伝説にも現れ、さらにインド神話にもひんぱんにヴィマナという飛行戦車が登場する。

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