最終話 このおっぱいな世界のこと
重い。
スバルから……そしてカミノからも託されたものが。……なんてカッコいいこと言えたらいいんだけど、物理的に重いんだこれが。
「見違えたぜナナセ」
「スバルもね」
スバルを揉んだことで、4つの宝を私が手に入れたことになったんだね。誰かがそれを実現すると4つの宝は消える。だから、私の目には、もうバスト力は映っていない。
スバルの二人薔檻も消えたから、元の姿に戻っている。バスト力は見えないけど分かるよ、スバルは間違いなくFカップ。それに、元々ボーイッシュだった井出達もガラっと変わ……ってないな。少年っぽさは消えたけど、相変わらずの短髪で、今すぐ頭にハチマキ巻かせてブルマ履かせて運動場に送り出したい。なんかイケメンっぽいのが妙に悔しい。
「ナナセさん、ここにいましたの!?」
あ。そろそろバレるかなーと思ってたら、案の定。アリシアにタマキ……それにカミノ?
「ちょうどよかった、そっちに行こうと思ってたんだよ」
「やめておけ、あの場は荒れすぎだ。……キンとシルヴィーを犠牲にして来た」
「そもそもこんなことを企てた本人ですので、当然ですわ」
なるほどね。もう4つの宝のことは隠す気ないから、その説明やらなんやらをぶん投げてきたわけか。頑張れ金さん銀さん。
「ナナセさん」
カミノが私の前に来た。私のおっぱいを見たら、何が起こったか分かるよね。カミノがそうなった時みたいに、アリシアの四璃魂を使ったわけでもない。正真正銘、私のHカップ……H級おっぱい。
「何を……願うんですか?」
「カミノは勿論気になるよね。ある意味、カミノの願いを奪ったのは私なんだから。でも……後ろめたいのはお互い様。ぺろっと忘れて行こう」
カミノ、やっとこっちを見てくれた。私がぺろっとって言ったからか、ちょっとだけ舌をぺろっとしてかわいすぎる。
「で、願いなんだけどね……」
カミノは勿論、アリシアもタマキもスバルも、後ろにいる他のたくさんのおっぱいも、私に注目してる。注目するなって方が無理だよね。これがアイドルの気持ちか。……どっちかっていえばパンダの気分だ。
この願いが上手くいけば、私は勿論、カミノや他のおっぱいにとってもいい結果になるはず。だから、上手くいって欲しい。
私はこの場にいる全員を見渡してから、両手を大きく広げて宣言した。
「私の願いは……この世界にいたみーーーんな、AAカップになれーーーーー!」
よし、やってやった。
うんうん、分かる分かる。ようこそ静寂って奴。からの……
「はあ!? ちょっと思ってたんと違うんだぜ!?」
「何を考えてますの、ナナセさん!」
「ふざけて良い場面ではないぞ!」
スバルを筆頭に、アリシア、タマキ、その他ぎゃーぎゃーにゃーにゃー。
スバルが思ってたのは、たぶん私がこの世界のことを知りたい、って願うことだよね。それは正しい。
アリシアにタマキ、私は全くふざけてないし、ちゃんと考えてるよ。けどま、そんな反応は予想どおりなのでOKっす。
けどカミノ……カミノだけは何も言わない。カミノには真剣に怒られるかもって覚悟してたんだけど。
「ナナセさん。今ナナセさんは、『この世界にい“た”みんな』って言いました?」
お。気付いてたか、そのポイントに。カミノも、ずっとH級を狙って色々計画を練ってたんだもんね。
「ん……この世界にいるみんな、じゃなく、過去形なんだぜ? って言ってる間に貧乳に!?」
「こ、これはもう貧乳というか、無乳ですわ……」
せっかくひと時だけ元のFカップに戻ってたスバル、四璃魂でGカップにしてたアリシア。おっぱいを……もはやおっぱいと呼んでいいか分からない板を撫でている。タマキはリアクション少ないな。私とカミノはこれが日常だった……反応なんてしようがない……。
「で。ナナセ、お前の真意は? さっきはああ言ったがお前のことだ、何か考えがあるなろう? そうでなければ……」
うお、タマキにずいっと近付かれてよぎったよ私がこの世界に来てすぐのこと。ヘッドロックで落とされて気絶したんだ。でも、目を瞑ると思い出す……その後目を覚ましたら、天使がそこにいたんだよね。今だって目を開ければ、そこにはカミノが……。
「おっす。君がH級になった系女子ー? やっるねーびっくりだよー!」
カミノがはっちゃけた。
ん……? カミノの髪型はハーフアップだよね。でも今私の前にいる人、ツインテールになってる。早業?
……なんてね、上手くいったってことだ。カミノに似てるけど、違う人。
「あ……アオイ姉さん!?」
「お、
「か、カミノですよ姉さん……」
「分かってるよあたしも神野だもんっねー!」
何これ姉妹コント? 思わぬ所でカミノの本名分かったよ。
おとなしめなカミノに対して、その人……アオイは常にはっちゃけてる感じ。正直イメージと違う。こういう時のお姉様ってのは、日の当たるテラスでパラソルの下紅茶を楽しんでるーのを想像してたのに。
「ナナセさん……これはいったいどういうことですの!? あなたの願いは、AAカップにするだけの……。いえ、待ってくださいまし。先ほどスバルさんが確認したことを考えると、これは……」
「そのとおりだよ、アリシア」
そろそろ皆、気付き始める。私がしたことと、ここにアオイがいること。気付き始めたから、カミノを押しのける勢いでアオイの周りに人だかり。本当に人気だったんだねアオイって。あのキャラ見てホントかよって思ったわ。でも、そこがいいのかもしれないけどね。
私が願ったこと。
この世界にいた人みんなAAカップになれ。
願いを叶えるのに必要なこと。
4つの宝を集めて、Hカップになる。
アオイが願ったこと。
この世界のことを知りたい。結果、消えた。
アオイはH級になってその結果消えた……じゃあもし、アオイのおっぱいがAAカップになったらどうなるのか、と私は考えた。AAカップになればアオイが願ったこともなくなって、戻ってくるんじゃないか、そう考えたから。そのために、スバルが確認してきたように『この世界にいる人』じゃなく『この世界にいた人』に対して願いが効くようにしたんだよね。
「さってーH級になった君! 今は劇的な貧乳だねー男の子かなー?」
「アオイも同じだよAAカップなの」
「たっはーこりゃ一本取られたねー! そして一本どころかあたしのおっぱい取られておこだよ!」
その結果は……成功したよ。といっても、まずはカミノやアオイファンクラブの人にとっての成功だけどね。私にとっての成否は、ここから。
一歩一歩近付きながら話すアオイを、私はまっすぐ見る。
「んで? そーんな夢のないこと願っちゃった君の目的は!?」
そうして私の目の前に来たアオイは、小首をかしげて上目遣い。くっそ……やっぱり姉妹だ、かわいい。でもカミノの方が好き。
「カミノから聞いたよ。アオイがH級になって願ったことは、『この世界のことを知りたい』だって」
この世界のこと。
私が最初に疑問に思ったことだ。
この学園以外何もない世界で、男はいない。なのに、電気もあるしご飯もある。G級がかちあった時、窓だと思ってたものがただのディスプレイであることも分かったし。正直、何が分からないのか分からないくらい、分からないことだらけで。だから私は、H級のことを聞いてから、絶対にそれを知ろうと思ってたんだ。
けど、アオイのことを聞いて、そしてカミノの願いを知って……この願いに変えた。こうすれば、カミノも私もハッピーになれるからね。
アオイは、この世界のことを知っている。
「アオイ。私もその願いは同じ……この世界……このおっぱいが絶対な制度の世界のこと、教えて欲しい。知っていることは、なんでも」
超真面目トーンなんだけど、おっぱいって単語を挟むだけで、途端にライトになるのはなぜなんだろう。
「分かった、話すよ」
やった。これで分かる。たぶん、他の人だって知りたいはず。
「この世界は、他人のおっぱいを揉むと自分のおっぱいが大きくなる世界なんだ! なんとびっくり! これなら貧乳にも巨乳にもなれるねー!」
そう、それがスタートラインだった。本当に、意味が分からない世界だよね。
「……」
ん?
「アオイ、続き言っていいよ」
「続き?」
あれ、なんだこの空気。
「続きも何も、さっきので終わりっさー!」
え。
「ちょ、終わりって……そんなこと皆知ってるというか、常識じゃん! 私が知りたいのは、アオイが願いで知ったっていう……」
「いやそれがさー! それ以上のことなーんにも分からなかったんだよねー困った困った! あまりに困ったから私の眉ハの字どころかHの真ん中の棒ない感じになってるよー! そこをH級にしたいんじゃないっつーのー!」
ちょ、ちょっと待って。
「アオイ様、一旦ふざけないで教えていただけませんこと?」
「そうだな……」
アリシアもタマキも、先に促してくれる。こっちが眉毛H級になるわ。
「本当だよ。さっきの願いは、本当にそれしか知ることが出来なかったよー」
「じゃ、じゃあなんで消えてしまったんですか!?」
「分かんね分かんねー! だから、戻ってこれて本当によかったんだよねー!」
カミノの質問も、アオイは同じような調子で返すだけ。本気なのか、何か隠してるのか……。
「嘘だと思うなら、もう1度H級になって、あたしと同じこと願うといいんだよ!」
……力、抜けた。
カミノの方は成功したけど、私にとっての願い、失敗だ。けど、もう1度H級に? 皆AAカップにしちゃったこの状況で?
「紅音……じゃないカミノ! 解説よろっす!」
私の質問、先読みされたのかな? アオイがカミノの肩をポンと叩いた。
「あ、はい……。ちなみに、H級が誕生した瞬間宝は一旦全て消えますが……また誰かの元に現れる。つまり、またH級になれるということです」
それは、そうだよね。そうじゃないと、アオイの次に私が一眼麗蓋になって、そしてH級になったことの説明がつかないもん。
「私が思うに……」
言葉を失ってた私の横に、スバルが並んだ。おっぱいがなくなってそのイケメンで、完全に男。私的には、スバルの目的も結構謎なんだよね。あっさり私に揉ませて……。
「まずその程度の情報しか得られなかったということは、願いが漠然とし過ぎてたからだと思うんだぜ。この世界のことを知りたいと願って、おっぱいのサイズが変わる世界です、という回答でも別に間違っていないんだぜ」
もっともだ。本当なら、この世界の外はどうなっている? とか、男の人はどこにいる? とか、具体的な内容を聞くべきだったんだ、アオイは。
「だけど、悲観することはないんだぜ。理由は分からないが一旦消えたアオイ……そこに何かあると思うんだぜ!」
ああ、そうか。スバルもたぶん、私が知りたいことと同じことを知りたかったんだね。この状況で、すぐその推理が出来るのは……前々から考えてたってことだからかな。私に揉ませたのは、私も同じだろうと察したから。加えて、スバル単独では困難になりそうな、アリシアとタマキを、私はすでに揉んでたから。
それに、アオイが消えた理由か。確かに、そこに何かありそうだね。でもたぶん、今ここで知恵を絞っても何も変わらない気がする。
だったら……。
「スバル! タマキ! アリシア! アオイ! ……カミノ! 私は、もう1度H級になる! 宝を持ってるおっぱい! 覚悟しとけーー!」
1人ずつ指を差して宣言してやった。
ここは皆で、おーーーって言って次に向っていきたかったんだけど、ありがとうその無表情。呆れられたわ。……わざとやってるの、分かってるんだけどね。
「ふふ……」
だって、カミノが耐え切れなくて表情崩しちゃったから。
「ちょっとぉ! いい加減こっちをなんとかしてよぉ!」
あ、遠くからキンかシルヴィーか、どっちがしゃべってるか分からない声。
もうこの食堂も完全にパニック状態だよ。
「ってわぁ!」
腕を引かれて、厨房に入っちゃった。ここなら誰もいないけど……
「ナナセさん! 今度こそ! 一緒に頑張りましょうね!」
わぁ……引っ張った張本人、カミノが抱きついてきた。鼻血を出してもよいですか。……でもよかった、ギスギスした関係にならなくて。
「うん。皆で協力して、この世界のこと、全部知ってやろう!」
声が大きかったせいで、厨房の中までおっぱいだらけ……じゃないね、AAカップだから。でもたぶん、少ししたらまたおっぱいに溢れた世界になるんだろうな。
そこでも私は、Hカップになってみせる!
<終>
絶対おっぱい制度 DAi @dai_kurohi
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