第7話 集まるおっぱい

 今日から私、Bクラス。

 カミノやスバルと別れてしまうのはちょっと悲しいけど、私から会いに行けばいいよね。後はまあ、Bクラスの連中に気を付けるだけか。G級でさえ、ふいをつく暴挙に出たんだ。私がBクラスに入って即揉まれて、はいただいまAクラス、なんてなったらただの初めてのおつかいになっちゃう。


「ナナセ!」

「あ、おはよスバル」

「早くこっちに来るんだぜ!」


食い気味どころかスバルのスを言ったあたりで引っ張られ、辿り着いたはAクラス前の掲示板。私今日からBクラスなんだけど知らないの? という言葉がよぎるけど、それは口から出なかった。


「何これ?」


 ここはAクラス前のはず。なのに、BからFクラスの面々、そしてアリシア・タマキの、G級までここにいる。人が多すぎて掲示物は見えないけど、よほど重要ってこと……だから、この全員が見られるAクラス前に貼られたって感じか。


「ナナセさん!」


 でも、私に気付いたアリシアが声をかけてくれると、人の壁は真っ二つ。男だったら、アリシアじゃなくてモーゼって名前だったろうねこりゃ。


「って、これ……」


 4つの宝。その存在は、あまり知られていないって、昨日カミノから聞いたのに。


四璃魂しりこん:アリシア

三叉穂壺さんさほこ:タマキ

一眼麗蓋いちがんれふ:ナナセ


4つの宝のうち3つを持っているお前達を、体育館で待つ』


 なんでこんな、掲示がされてるの?


 それにこれ……昨夜話した、私がやろうとしてたこと……。


「アリシア様! これはいったい!?」

「タマキ様―! これ昨日の乙滅の時に否定してましたよねー?」


 G級までもこんな所にいる状況で、その2人が質問責めになるのは当然か。しかも、私がやらかした昨日の今日だから。アリシアとタマキは必至に沈静化しようとしてるけど、こりゃダメかもしらんね。


 ただ……私の一眼麗蓋まで書いてあるなんて。


 私は確かにやらかしたけど、自分の宝は公言してない。アリシアを四璃魂だと断定していることでバレた? けど、それで気付くには、宝に詳しくないといけない……。

 さらに、掲示されているのは3つの宝だけ……。


「カミノ、例の宝の話、多くの人には知られていないんだよね?」

「ええ、そうです。高いクラスの方でも限られているはずです」

「そうだよね……」


 なら、行かないと。


「アリシア!」

「行きますの!?」

「うん……決着、つけないと」



「ナナセさん、スバルさんは掲示板の前に残ると言っていました。『犯人は現場に戻るんだぜ』だそうで……」

「あれ、珍しいね。こういうの真っ先に飛び込んでいきそうなのに」


 掲示物で指定されていた、いつも乙奪乙滅をする体育館。その最も目立つ舞台に、2人の人影が見えた。


「ようやく現れたわねぇ、アリシア、タマキィ!」

「ついでにナナセもねぇ!」


 キンとシルヴィー。

 キンはアリシアとタマキによって、G級からただのFクラスに陥落している。シルヴィーは私によって、Dクラストップから3位に陥落している。成程、私らを狙うには充分な理由があるってわけだ。それに、私らが宝持ちとあっちゃ、ね。


「カミノ、お前は来ないほうがいい」


 私に釣られてか、カミノも体育館の中にいた。タマキがそう言ったけど、


「いえ、私は……」


歯切れが悪い。……そんな気がしてたんだ、あの掲示物、カミノは驚いてなかったからさ。


「カミノはいいのよぉ? あれを貼ってくれたのはカミノなんだからねぇ?」

「アオイお姉様を失う結果になった罪、そんなことでは消えないけどねぇ?」


 キンもシルヴィーも腰に手をあて前のめり。威嚇してくるね分かり易く。っていうか、話し方も声も似てるから、どっちがしゃべってるか区別つかないんだけど。


「皆さん、すいません……」

「いいよ、カミノ。だと思ってたから」


 前に、スバルが言ってた。シルヴィーとカミノ、昔は仲がよかった、って。恐らくは、前のカミノのルームメイト……アオイお姉様ってのが原因なんだろうね。G級から、宝を4つ集めてH級に……そして消えた、っていう。

 カミノは、アオイのファンクラブがあると言ってた。シルヴィーもそれに入ってて、アオイが消えたのはカミノのせい……そんな逆恨みでもしてしまったのかね。


「さぁてぇ……四璃魂アリシア、三叉穂壺タマキ、そして一眼麗蓋ナナセ……前に出なさぁい」

「……」


 カミノを使ったこの作戦……いや、作戦ってには、あまりにおざなりすぎる。キンとシルヴィーの狙いは……。


「4つの宝を揃えれば、H級になり願いが叶う……そこにいきつくのは、私達よぉ?」

「だからぁ……私達とあなた達で、乙滅を行うわぁ!」


 え、乙滅すんの?

 こうして私らの秘密を暴露して追い詰めて、罠でも張ってるのかと思ってたけど、あくまで舞台を作りたかったってだけかい!

 いや、違うか。普段の乙滅ではOKされない、圧倒的にこっちに不利な揉み合いをするつもり……。しかもそれなら、一応は揉み合いの中で得たものってことになるから、この世界的にはOK? もう何がOKなのか分からんけど。


「タマキさん、ナナセさん。こんな話、乗る意味がありませんわ」

「それは勿論だ。だが、G級としてこんな舞台に立たされ、断ることなど……」


 私はアリシアに賛成だけど、タマキの言ってることも分からなくはない……というか、この世界的にはOK、に当てはまるよね。この世界の人は妙なところで律儀。今回だって、ここまでお膳立てされたら、そんなものを断ることは出来ないんだ。アリシアもああ言ってるけど、本当にその思っているんだったらそもそもこの体育館には来ない。あんな掲示、無視すればいいだけ。


 それに、ぶっちゃけこんなことをしているキンとシルヴィーのことも分かる。私だって、一眼麗蓋を使ってなんとしてもH級にならなきゃ、って思ってたんだから。アリシアやタマキならともかく、私みたいなポッと出の貧乳にその座を盗られそうってなら尚更だしね。

 ということはキン達は、最初から宝の存在を知ってたってこと。当然か。キンは元G級……アリシア達が知ってたんだから、おかしくない。


 けど……。


「もしかして……」

「どうしました?」


 カミノ……。アリシアとタマキが前に出てるし、乙滅をどうするかってことで揉めてる。キン達からの視界は遮れる……か。


「キン達は、H級になるために私達を集めた。この状況、私達は断りたくても、断れない。それが分かってるから、キン達はこんな作戦に出たんだよね。けど……結局二人薔檻がいないと意味がない。どうせなら、その二人薔檻だってここに集めないと」

「そうですよね。なら、なぜキンさん達は……。あ」


 カミノは口を手を当てて眼を開く。気づいたって表情だね。いちいち仕草がかわいいなまったく。


「そういうことだよ」

「なら……」


 まだアリシア達はわーわー言い合ってる。その分こっちはまだ話せそうだけど、カミノがさらに近付いてきた。


「……ナナセさん」


 ゾワっと来た。耳元でエンジェルボイス。


「私に考えがあります。今は乙滅を承諾したフリをして、時間を稼いでください」


 これまでのキンやシルヴィーの行動……今回、私が宝持ちだと暴露してしまったタマキとアリシアだけでなく、私もここに呼ばれたこと……そして今この時。


「分かった、まかせて。私が注目を集めるから、その隙に外へ」


 なら、私がすべきは……。


「私は!」


 ダッシュで舞台に上る。アリシア達の話なんて関係ない。カミノの動きのためなんだ。


「私は、おっぱいが嫌いだ!」

「は?」


 いったい何人が、そんな声を漏らしたんだろ。私のせいだけど、どうでもいいね。もう1回息を吸って、と。


「だから私は、H級になる! H級になって、みんな貧乳にするから! そこんとこ、よろしくーー!」


 よし、やってやった。

 アリシアにタマキ、キンにシルヴィー、プライドのぶつかり合いみたいな話は、私が全て壊しちゃった。正直結構恥ずかしいけど、この巨乳祭りの中に1人貧乳で舞台に立つこと自体がもうそれだから、何してもいいよもう。


 これでカミノは、周りの観客に紛れたかな。


「ナナセさん!? いったい何をおっしゃってますの!?」

「今の状況、分かってるのぉ?」


 アリシアとキンが、私に近付いて叫ぶ。さっきのカミノボイス、忘れちゃうよ声大きい。


 ごめんて。でもこうしないと、カミノが動けなかったから。


「! なんだ、お前達!」


 タマキが叫ぶ。

 タマキの周りには、ABCD……色々なおっぱいが並ぶ。クラス関係なく、タマキを取り囲んでいた。そしてそのまま、タマキを羽交い絞めにし、手足を縄で縛ろうとしてる。タマキにぶん殴られても突き飛ばされても、何度でも向かってた。バカ力のタマキもすごいけど、それを気にせず向かっていくおっぱい達、どこからそんな気合が……。


 っと。

 冷静にタマキを見てる場合じゃないね。


「何をしていますの!?」

「こ、この元G級の私に触れるなんてぇ……!」

「あなた、Dクラスの下位よねぇ……元Dトップの私をぉ……! いえ、あなた達、アオイお姉様のぉ……!」


 アリシア、キン、シルヴィー……彼女らの周りにも、おっぱいが取り囲んでるんだから。身体能力で秀でるタマキよりは人数が少ないけど、狙いは同じく、手足を縛って拘束することか。


 そして勿論、私も。


「ねぇ、考えって……時間を稼がせた目的って、これ? カミノ」

「はい、すいません。これが私の目的。ちなみに、あなたと出合った時からずっと、考えてました。私が……私が、H級になります!」

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