第6話 おっぱい撃滅戦


「ナナセさん」

「はい」


 乙滅おつめつの日、でっかいおっぱいが私の前に現れた。


「なぜあなたは参加していないんですの?」

「代表者になれなかった」


 アリシア、おっぱいを揺らしながらしゃべるの辞めて欲しいな見せ付けるな。


 今日の乙滅のエントリー者が、体育館の入り口や舞台のモニターに表示されていて、誰もが対戦カードを見られるようになっている。そこに、私の名前はない。私、参加しないから。


「ナナセさん、あなたは注目の的なんです。そのあなたが揉み合いに出ないなんて……」

「そうだ、助かったよアリシア。注目の的なの分かってたから、てっきり私は対戦相手に指定されまくるもんかと思ってたけど、G級が出てきたおかげで皆そっちに集中してくれたよ」


 私は、誰にも指定されてないから、とりあえずやることなしってことだね。本当に、ほとんど全ての人が、G級を指定した。

 もっとも、すでに10名くらいの人がアリシアかタマキに挑んでいるけど、誰も勝てていない。勝負内は自由に決められる。2人は、多少自分達に不利な勝負内容も飲んでるのに、誰も、だ。


――さぁ、ただ今からG級タマキ様vsAクラス3位スバル選手の揉み合いが始まります!

 対戦ゲームは、ナイトメアタッチ! 暗闇の部屋の中で、スバル選手は5分間でタマキ様を揉むことを目指します! タマキ様は、5分間逃げ切れば勝利! 禁止事項は、光源を持ち込むことと部屋から出ることです!


「あ、スバルの揉み合い始まるから、行くね。このゲーム、私が考えたんだよね、先週の、G級が争った奴になぞらえて。

 だって、乙奪の時、私に挑戦みたいなことしてきたから、お返しにっと。それじゃ」

「あ、ちょ!」


――タマキ様、スバル選手、ともに部屋に入りました! ここからは、暗視カメラの映像を提供いたします! なお、こちらの音声は中には届きません!


――開始1分が経ちましたが、未だ両者、一歩も動いておりません! じっと目を閉じて、闇に慣れるのを待っているのでしょう! ……おおっと!?


「ふー……」


――スバル選手、ジリジリと動いている! すり足でタマキ様に近付き、気付かれないようにしている! しかし、さすがのタマキ選手、目線がそちらに行っているのが確認できます! 気配を感じているのでしょうか!?


 スバルには、こう動いたらいいんじゃない、って感じで色々話しておいた。どれを実行するか……おっと、スマホの作戦ね。ちゃんと画面消した状態でやらないと、光源になっちゃうぞー。


――スバル選手、スマートフォンを取り出し、ゆっくりタマキ様の方へ滑らせました! タマキ様、そちらに注目しているが、どうやら足音が録音してある模様!

 だが、スバル選手は反対側から、すり足ながら先程よりも早いペースでタマキ様に接近していくーー!


「おっぱい、もらったんだぜー!」


――スバル選手、今まさにタマキ様のおっぱいに手をー……


「ふん!」

「ぐえ!?」

「これで残り2分半程、動けないだろう」


――な……殴ったーータマキ選手、スバル選手のお腹を思い切り殴ったーー! スバル選手、これには悶絶して動けなーーい! ちなみにスバルさん大丈夫!?


「この揉み合い、暴力行為は禁止されていない。残念だったな」


――5分経ちましたが、スバル選手そのまま動けません! この揉み合い、タマキ様の勝利だーー!


「タマキ様が部屋から出てきた! 行こう行こう!」


 相変わらずの人気だねぇ、毎試合毎試合皆に揉まれて。


「タマキ、よく分かったね、スバルの動き」

「目は大分暗闇に慣れていたし、お前の狙いも分かっていた。それより、なぜお前は乙滅に出ていないのだ? 愚かな……」

「そんな硬いこと言わないで、私も揉ませてよ」


 タマキの取り巻きが去って、ようやく話が出来た。スバルの動き、無駄はなかったのに、これが本気になったG級か、まいっちゃうよ。


「お前、もうBクラス程度はあるのではないか?」

「いやー、まだAクラスだよ。1秒前まで」


 ふにょっとおっぱい。筋肉質っぽいのに、ここだけはなんでこうなんかね。


「……は?」


 けど……これで私はBクラス入りだ。


「G級おっぱい、いただきました!」


 周りがどよめいてる。私のおっぱい大きくなったからね、今この瞬間。一眼麗蓋じゃなくても分かるほどの増量具合、それだけ差があるし、相性もよかったってことか。アリシアの時あまり大きくならなかったのは、やっぱりアリシアが四璃魂で、本当のおっぱいは小さいってことだね。


「な……お前、何をした? 乙滅も、乙奪と同じくエントリーし対戦者同士しかおっぱいの増減は……。……お前、まさか!」

「乙奪も乙滅も、下位クラスが準備するじゃんね。特にAクラスは絶対やる。……エントリー者の管理だって」


 私、この乙滅に参加していないなんて嘘。

 本当は真っ先にエントリーして、真っ先にタマキを指定した。スバルを通して、ね。


 私は間違いなくエントリーしてタマキとの対戦カードを組んだけど、入り口やディスプレイの表示には、私の名前ではなくスバルの名前を出しておいた。すばるは、乙滅にエントリーしてない。私が頼んだんだ。運営はAクラスがやる以上、これくらいの細工は簡単。卑怯かもしれないけど、G級相手にするなら、これくらいのことはしないとって思ってたから。


 ……スバルをぶん殴ったのは、予想外だけど。スバル、安らかに眠れ……。


「ナナセさん、やりましたね!」

「カミノ……あだじを助げで……」

「あ、ごめんなさいスバルさん!」


 私の策を伝えていたのは、この2人だけだったけどね。

 でも。


 本番はここからだ。


「タマキ。先週のキンとのやりあい、見てたよ。すごかった、そう思ったのと同時に違和感しかなかったけど」


 あのとき、タマキは2m程の距離の相手を、一歩も動くことなく揉んでいた。そして、おっぱいの増減はその差に依存するのに、タマキのおっぱいはあっという間に元通り。いくら3人揉んだからって、それはおかしい。せいぜいギリギリGになる程度にならないと変。


「タマキは!」


 タマキを揉めてよかった。ルール改変のおかげだね。だって……


三叉穂壺さんさほこを持っている!」


その違和感の正体、タマキが三叉穂壺さんさほこってことなら解決するからね。


 三叉穂壺さんさほこの効果は、自分の腕の3倍の距離まで揉めて、おっぱい揉んだら3倍大きくなるってものなんだから。


 これで後、誰が持っているか分からないのは、二人薔檻ににんばおりだけ……。


「そして、アリシアは四璃魂しりこんを持っていると思われる! 私は、4つの宝を揉んでH級になるよ! けど、1人締めするつもりはない……皆H級になって、皆で願い事を叶えよう!」


 私の本当の目的は、これ。G級の2人が宝持ちと分かれば、さらにG級を狙う人は増える。でも、それはFクラスじゃないと難しい。

 残る二人薔檻ににんばおりは、たぶん小さいクラスにいるけど、本当は大きいおっぱい、だと思ってる。宝でそれを隠して。大きければ狙われるから、小さいフリしてるのはありえるからね。けど、そんなFクラスになって動かないといけないとなれば、二人薔檻ににんばおりは宝の効力を解く……尻尾を出すに違いない。


「お、おいナナセ、お前何言ってるんだぜ?」


 スバル、立ち直ったんだ。けど……


「何を言ってるって、スバルこそ何を言ってるの?」


 カミノから聞いた宝の話。

 私自身がおっぱいサイズが見える一眼麗蓋いちがんれふな以上、嘘でも冗談だとも思えない。タマキの三叉穂壺さんさほこだって見たんだし。


「あれ……?」


 私の予想では、ここですらアリシアとタマキのおっぱいを揉みにいく動きで会場はドンパチになると……。

 でも、なんで皆ポカン顔で私を見ているわけ?


 4つの宝の話……この世界の常識じゃない……?

 これまで、不用意に話すと私が一眼麗蓋いちがんれふだってバレかねないと思って、話題に出したことはなかった……でも確かに、こんな話が全く出ないというのもおかしな話だ……。


 いや、でも。

 宝を持ってる人からしたら、他人事ではいられないはず……。ううん、肝心の二人薔檻ににんばおりが知らない可能性だってある。だって、一眼の私も最初は知らなかったわけで……。


 ミスった……?


「ナナセさん、ちょっとこちらに」

「アリシア……」


 この反応、アリシアは知ってるってこと……!


「皆、聞け。

 彼女……ナナセは1ヶ月程前にこの世界に来たばかり。皆も心当たりがあるだろう、来たばかりで右も左も分からない者は、得てして混乱していることを。

 特にナナセは、来たばかりからの快進撃。アリシアに1回、シルヴィーに2回、私に1回。Dクラス以上の者を揉んでいる。そんな状態で、おかしな夢を見ても仕方ないと思わないか?」


 タマキ、火消しか……当然、タマキも知っている。

 たかがようやくAからBクラスになった私と、ずっとG級のタマキ。これなら大丈夫か……。


 アリシアとタマキは宝のことを知っている。周りの反応を見る限り、一部の人も知っていそうだけど、大半は知らないって顔。やっぱり、おっぱいでかい方が知ってる顔してるのが多い。AやBクラスが、知っているのはおかしい。


「……アリシア、言いたいことは分かる。たぶん、全員が全員知らなくていいこと、私は言ったみたいだね。てっきり皆知ってるものかと。私は一眼麗蓋いちがんれふ、だからアリシアが盛ってるのも分かった」

「盛ってるって……四璃魂しりこんのことですわね。一眼に見破られるのは知っていましたが……。ですが、なぜそれを私に明かしたんですの?」


 アリシアは、これまでの動きから信用出来そう。まあ、私の目が不確かだから、今の状態を生んだのかもしれないけど……ね。



「とか思ってみたものの」


 あれから自分の部屋に戻ってきたけど、ずーっとモヤモヤが止まらない。

 あの後、タマキの演説で、私が乙奪連勝乙滅も勝利で調子に乗ったがゆえのバカ発言、ってことで収まってた。策で勝っても、まだ勝てる気しないわ。


 だからこそ、H級になりたい想いも強くなった。


「思ってみたものの、なんですか?」

「カミノ……」


 どっちか分からない。


「カミノ……あなたは何者?」


 G級や、一部のでかい奴らが知ってること。なんで、カミノが知っているのか。

 そしてカミノが、私に宝のことを話したのは、私が一眼麗蓋いちがんれふだと知った時。この宝は、カミノには害はないし、他の宝を見破れる。私を利用している可能性はない……?


「ナナセさん、その質問……どういう意味ですか?」


 カミノが、下から上目遣いで覗き込んできた。私を心配してる。かわいすぎか。


 私、カミノからこの世界のことを、イチから聞いて来たんだ。カミノがいなければどうなっていたことか……。なのに、私……。


「いえ、すいません……そりゃ、疑ってしまいますよね。あたかも誰もが知っているような口ぶりで話したのに、あれですからね」


 カミノが、後ろに引いて自分のベッドに腰掛けた。私も自分のベッド。この部屋は、中心にテーブルなどを置く空間があって、それを挟むように2つのベッドが配置されてる。……ちょっと距離が出来てしまった。


「私の元ルームメイトの話をしますね。彼女は、消えたんです」

「消えた?」

一眼麗蓋いちがんれふだった彼女は、すごいスピードでクラスを上げていきました。そして、Fクラスまで辿り着いたとき、当時すでにG級だったタマキ様からH級の話を聞いたそうです。お前ならH級になれる、と言われたと。タマキ様が三叉穂壺さんさほこだとは、私も知りませんでしたけどね」


 ……そのルームメイトは、なんでカミノにその話を……? Aクラスのカミノには、あまりにかけ離れた話なのに……。


「私がこれを聞いたのは……彼女が消える、その日でした」

「消えた?」

「ちなみに彼女は、全ての宝を揉んで、H級になりました」


 ということは、その人は願いを叶えたってこと。


「その人、私やカミノと同じ?」

「やっぱり、ナナセさんもそう思いますか」


 異世界から来た人間。じゃあ、消えたというのは……。


「でも、私はたぶん、ナナセさんを利用していたんだと思います。いきなりあのシルヴィーさんに勝ち、しかも一眼麗蓋いちがんれふ……彼女を想像せずにはいられませんでした。

 だから、ナナセさんにもH級になって貰って、私も彼女が見たもの、知りたかったんです。ナナセさんを通して、ですけど」


 それは利用したって言わないさ……。


「ごめん、カミノ」

「いえいえ、私が悪かったんです。最初から全て話せばよかったんです。ちなみに、ナナセさんはやっぱりすごいと思います! まだ1ヶ月に満たないのに、色々考えているんですから。

 前のルームメイトにも匹敵しそう。すごかったんですよ? ファンクラブがあって、今ですら彼女の名前を出せば動いてくれる人がいるとかいないとか。ちなみに……」


 カミノもその1人ってわけね。


「……ふぅ」


 力、抜けたな。

 悪い方向に考えすぎてた。というか、あの乙滅の終わりのせいで、動揺してたよ。


「カミノ」

「はい♪」

二人薔檻ににんばおり、見つけよう。手伝ってくれるよね」

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