第9話 願いと願い
「皆さん、これでアオイ姉さんの元に、行けますね!」
カミノはお祈りポーズをやめて、振り返った。こっちは見てくれないんだね。でも、代名詞ばかり使っていたその名前、口にするようになったんだ。
「ねぇカミノ」
こっちを向いてくれないなら、向かせないとね。
「なんですか?」
「アオイがH級になって願ったのは何?」
「この世界のことを知りたい、でしたね」
「!」
そっか、私と同じ……。でも、それを願って消えたっていうのはなんで……?
「そこですぐアオイは消えたの?」
「はい、そうです。願いを口にしたらすぐの出来事でした。こうやって複数人に対して願いが使えるのなら、私も一緒に行きたかったですね……。だから、本当は別のことを願ったんだと思っています」
ま、想定外だったろうからね、その願いで消えるなんて。
「じゃあさ、なんで今……カミノはここにいるの?」
アオイが願ってすぐ消えた。それはカミノが言ったこと。そうじゃなくても、カミノが怒ったフリをしたり、シルヴィーがカミノのせいと言ったり、これが起こるには突然の出来事じゃないとおかしい。そのあたりの事情が分からないくらいのものだったってことだから。
けど、カミノはここにいるんだ。明らかに、ここから消えるって願いをしたのに。
「あれ……確かになんで私は……?」
周りを見渡すカミノに、アリシアが近付いた。
「ごめんなさい、カミノさん」
そうしてカミノの肩に触れると、大きかったカミノのおっぱいが……Gカップになっていたカミノのおっぱいが、元のAカップに戻った。同時に、アリシアのおっぱいもG級のものに。
カミノのバスト力、ずっと見えていたから分かるよ。
「いったい、どういう!?」
乙奪で実況する時のような声の張り具合だね、カミノ。でも、それも当然だよね。
「本当にごめん、カミノ。これ、私とアリシアの作戦だったんだ」
私がやらかした昨日。
タマキが、宝なんて私の妄言だと他の人達に言っている間、私はアリシアと話していた。アリシアからは窘められるだけだったけど、私はアリシアにしか出来ないことを提案した。
その提案の前段階。私は二人薔檻をおびき寄せるために、私が一眼麗蓋であることや、アリシアが四璃魂であることを掲示する計画を話した。
この時の不安材料を払拭するためのアリシアへの提案……それは、二人薔檻以外が私らを揉みに来ること。最低でも3つの宝が集まることになるから、誰かがおかしな動きをしたって、おかしいとはいえない。
こうなりそうだと感じた時、私は偽の二人薔檻をでっち上げるつもりでいた。そうしてそのおかしな動きをした人をハメるつもりでいたんだ。邪魔者を追い出すためにね。
さてじゃあ、それを今回に置き換えて考える。
私は、二人薔檻をキンかシルヴィーでは、と話していた。この2人が、そうじゃないことは分かってる。だからスケープゴートにして、不穏な動きをしそうな人にそれを伝えていたんだ。
そして、不穏な動きをすると思っていたのは……カミノ。
カミノは、私に4つの宝のことを教えてくれた。私が一眼麗蓋だからってこともあるかもしれないけど、アリシア達がひた隠しにしようとしたこの宝のこと、そうあっさりと話すのはおかしい。それに気付いたのは昨日なんだけど。今更かよって感じだったよ。
そして今日。
カミノにしか話していなかった、二人薔檻をおびき寄せる作戦が起こった。内容自体は大したものじゃないけど、昨日の今日ではい作戦実行ーってんじゃ、カミノに話したから動きがあった、としか思えない。
どっちも、確信めいたものじゃなかったさ。けど、実際にそうなってしまった。残念だ、とは思わないよ、だってカミノだもん。感謝してるからね。
「アリシア様とナナセさんの作戦……? さっきの私のおっぱいはなんだったんですか……?」
アリシアのおっぱいが小さくなって、カミノのおっぱいが大きくなった、アレのことだよね。
「カミノ、言っていたよね。四璃魂の力を」
「おっぱいのサイズを自在に変えることが……。ま、まさか自分のおっぱいだけじゃなく、他の人のおっぱいのサイズも変えられるんですか!?」
「相手に触れてないといけないみたいだけどね」
あの時、カミノがアリシアのおっぱいに触っていたから、それを満たせる。
これを行うには、最後にアリシアを揉ませないといけない。だから私は、カミノがキン、シルヴィー、タマキを揉んだ後に声をかけた。そうすればこっちに近付いてきて、ついでに揉んでくると思ったから。
「何のために、そんな……」
「簡単だよ、カミノがどんな願いをするのか聞きたかったから」
ここでカミノが、この世界を支配するーなんて言い出したらどうしようかと思ってた。けど、やっぱりカミノはまっすぐだね。それに、完全にこっちの策にハマった……そう思えば、カミノも諦めてくれるだろう、って思いもあるし。
「私は……騙されてた……。いえ……悪いのは私、ですね……。ごめんなさい、アオイ姉さんファンクラブの皆さん……G級の方々……そして、ナナセさん」
シルヴィー忘れられてて、なんだかポカンとしてる。でも、これでとりあえず、こっちは片付いた……かな。それにこの事件のおかげで、私は核心に近付いた。
◆
「スーバル」
教室側に戻ると、イスに座って盛大に貧乏揺すりをしてるスバルを見つけた。震源になれそうだよ。
「お、ナナセ! 大丈夫だったか!?」
私が声をかけると、スバルはぴょんとイスから降りて駆け寄ってきた。うん、震源になれたとしても、決して揺れないものってあるよね。よく分かるよスバル。
「珍しいよね、野次馬の権化みたいなスバルが、こんな所で待ってるなんてさ」
「ん? そりゃまあな、あたしだってそういう気分な時もあるんだぜ!」
「そうだっけ?」
乙奪だってそう、G級とG級がぶつかった時もそう、乙滅の時なんて進んで私の策に乗ったこともそう。それに、色々おかしいこともあった。
「ねえスバル、ちょっとお茶でもどう? 体育館であったこと話すからさ。今はアリシアとかタマキとか、体育館でばったばただし、たぶん私からしか話聞けないよ?」
◆
食堂に場を移して、もう始めてます。
スバル、この子ほんとに良く食べるんだよね。元の世界にいたら私が誘った手前おごりってなってただろうけど、ここでは全部タダだ。ラッキー。
「……カミノがねえ。なんか意外だぜ。まあ、アオイがいなくなって相当参ってたみたいだからな、大目に見てやって欲しいんだぜ」
「私はなんとも思ってないよ。むしろ、カミノをどうケアするかって考えてた」
それがあるから私は体育館の騒ぎをほっぽり出して、ここでミルフィーユをぱくついてるんだから。食堂に他の人、全くいないしね。後でアリシアやタマキにどやされるだろうけど、そんなことはその時考えればいいよ。
「スバル」
「……ま、さすがだぜナナセは。来て早々アリシアを揉んで、乙奪も乙滅も無敗だもんな」
私がここにスバルと来た理由を話そうとすると、持ってたフォークを、たぶんわざと音をたててスバルは置いた。
「一応、どうして行き着けたか、聞いておくぜ」
足も腕も組んで、こっちの様子を伺うスバル。今度は、貧乏揺すりしてないね。
なら、私は何も隠さず話すだけ。
「最初に変だって思ったのは、シルヴィーについての話を聞いた時かな。スバルは、シルヴィーが上のクラスから狙われてるって言ってた。でも、シルヴィーってDクラスだよね。その上ってことはEかF……ずっとAクラスにいたらしいスバルが、なんでそんなこと知ってるんだろ、ってね」
「そんなこと、噂でいくらでも聞けるんだぜ」
「そうだよね。だから私も、その時点では全く気にしてなかったんだよ。でも、G級とG級が2つに別れてぶつかった時、今度こそ疑問に変わった。スバル、FとかEとか、上位クラスに普通に話しかけてたよね。話しかけられた方はびっくりしてたみたいだけど。あれって、これまでのクセなんじゃないかな? 以前なら、スバルとその人らは日常的に会話してたから」
ひとつ目の話では、スバルは眉一つ動かさなかった。普段はころっころ変わる表情をお持ちなのに。でも、ふたつ目の話で、スバルの目が一瞬大きく開いた。なら、ダメ押ししよう。
「で、今日だよスバル。さっきも言ったみたいに、私のスバルの印象は何でも首を突っ込む系女子。なのに、こんなお祭りみたいな今日の出来事、来ないなんて絶対におかしい」
「ま……その点は否定できないんだぜ」
「じゃあなんで来ないか。今日体育館に、キンやシルヴィーから呼び出されたのは3人。一眼麗蓋の私、三叉穂壺のタマキ、四璃魂のアリシア。4つの宝のうち、3つもが集められてた。もしそこに、二人薔檻なんていたら、誰だってあっという間にH級だよ。キンもシルヴィーも、カミノだってそれを狙ったんだろうけど……」
そこまで言ったら、スバルが人差し指を突き出して私の唇にタッチ。カミノにそれをやられたら、私はコロっといきそう。でも少年みたいなスバルにやられても……。
「ま……もし二人薔檻が……あたしがその会場に言っちまえば、その通りになっちまうかもしれないもんな。だからあたしは、いかなかった」
あっさり認めるのか。だけど、その態度も私にとっては、“やっぱり”って思うだけ。スバルが二人薔檻……その可能性に気付いた時から感じてたんだもん。なんだか露骨だな、って。それに今だって、私が核心に触れる前に自白に等しい発言をしてた。だから私は、キンやシルヴィーが二人薔檻じゃないって思ってスケープゴートに出来たんだしね。
「スバル、やっぱりわざとか」
「やっぱり、ね。本当にさすがぜ。よし揉め、ナナセ! 二人薔檻でこの姿だけど、今あたしを揉んでも二人薔檻を揉んだってことになるんだぜ。そうしてナナセ……H級になって欲しいんだぜ」
もう、何も言うなってことね。
例のアオイって人やカミノみたいに、私は異世界から来た人間。色々バカみたいなことやってH級を目指してたけど、スバルの目にはどう映ってたんだろうね。こんな私に加担するようなことしてさ。たぶん最初は、ただ私を試すため、って意味外があったんだろうけど……少なくとも私がH級になって何を願うか、それはバレてるか。
なら……。
「じゃ、遠慮なく揉ませてもらうよスバル。揉めるほどないけどね!」
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