絶対おっぱい制度

DAi

第1話 おっぱいな世界


 たくさんあるのは好きだけど、いっぱいあるのは嫌い

 皆で集まってランチは好きだけど、乾杯は嫌い。

 同級生は好きだけど、先輩は嫌い。

 イチゴタルトは好きだけど、アップルパイは……これは許すか。


 何この“なんとかパイ”って言葉の多さ。世界にどれだけおっぱいを溢れさせたいわけ? 貧乳をバカにしてるのか! 悪かったな貧乳で、お風呂あがりにタオルひっかからないんだぞ!!


 そんなことを考えていた、ランチタイム後の数学の授業。ううん、授業という名の睡眠時間。

 考えていたことが悪かったのか、私が見た夢は……。


「あれ? なんかおっぱい多くない?」


 私は男女共学の高校に通ってる。人並みに彼氏も欲しい。なのに、なんでこんな夢見てるの?


 周りは全員女子高生。

 なんか私の通ってる高校の制服と違うんだけど、まあいっか。私もそれ着てるみたいだし。私の高校、セーラー服だけど、これはブレザーか。ピンク系で腕章のワンポイントがかわいいかも。教室の風景は……特筆することなし。


 ……と、なんだか冷静に周りを見てしまったんだけど……。


 なんでどいつもこいつもおっぱい超でかいわけ?


 右を見ればバストりょくFの75、左を見ればGの80……化け物かよ。あれ、なんか教団に立ってる子、見た目だけならメロン×2で一番でかそうなのに、バストりょくBの78……? にしても、その金髪で顔の横に垂らしてる髪の先だけ縦ロール……自分はお嬢様キャラですって主張し過ぎなんですけど。


 っていうか? さっきから見えてるこの、“バストりょく”って何? たぶんおっぱいのサイズなんだろうけど、なんで見えてるの? ……まいっか、鏡があったら自分を……見なくても分かるわふざけんな。むしろおっぱいとして認識してくれるかどうか……。


「ほーう?」


 こうしてみると、益々にっくきでかおっぱい。このバスト力B78の子、詰め物してたりして。どうせ夢だし、触ってみようかなーっと。


「覚悟おっぱい!」

「!?!?」


 おお……でか……制服プラス下着越しのはずなのに、この手に絡みつくかのような弾力……これが巨乳って奴か……!


「あ、ああああああ! あなたいったい何してますの!? こ、このアリシア様の、お、おおおおっぱいを……」


 ご立腹でらっしゃる。当然だよね、私だって突然触られたら怒るわ。

 っていうかアリシアて。思い切り日本語しゃべってるのに、そんな海を渡った先の名前みたいな。髪色だけだよそれっぽいの。


「私、七瀬ななせ。“何してますの!?”、って、おっぱい触ったんだけど?」


 何、名乗ってるんだろ。名前言われたから返しちゃったよ。


「おいお前! 自分が何をしたのか分かっているのか!?」


 うわー、なんか次はイケメン的な子が来ちゃった。ショートヘアーで、今グランドに出たら陸上の大会で即効優勝しそう。

 私とアリシアって子の間に立って、腕組んで仁王立ち。すごい似合うなそのポーズ。あ、よく見たらポニテか。えらい細いポニテだな、一部だけ髪長いんだろうなそれ。あと、身長高すぎて威圧感ありすぎ。そしてやっぱり、おっぱいでかすぎ。バスト力Gの80の子だったか。


「言ってることは分かってるよ。そりゃま、人様の身体にいきなり触ったら失礼だけどー、女同士だしよくない?」


 いや、よくはないんだけどね。


「もっと言ってくださいまし、タマキさん。

 それにあなた、ナナセさんと言ったかしら!? どう見てもAクラスのあなたが、なんでこのFクラスにいるんですの!?」


 そのアルファベットの意味すぐ分かったわ。完全におっぱいのサイズじゃん。私、Aカップですらないんだけど。所属できるクラスはあるんだろうか。


「アリシア、こういう輩はさっさと摘み出すだけだ。質問なんて意味がない!」


 イケメン女子のタマキって子、一気に間合い詰めてきた。私の視界からは、もうおっぱいしか見えないんだけど。たぶんタマキからも私のこと見えてないよ、見えてるのおっぱいだけだよ。


「あの、よく分からないんだよね自分でも。気付いたらここにいて、どうしていいのか」


 仕方ないから、おっぱいに素直に話して解放してもらおっと。しっかり触っておいて、何言ってるんだって感じだけど。


「ふざけるな! Fクラスの……よりによってG級のおっぱいを触っておいて、ただでいられると思うな!?」


 タマキって人からおっぱいって単語が出てくるの、なんか違和感あるな。

 で。胸倉掴まれたら、すごく苦しいんだけど。気付いたらヘッドロック状態だよこれ。締まって痛いし。夢の中って、痛みを感じないことで有名な世界だよ?


「あ……うあ……」


 声出ない、これやばくない? 意識が遠のいて……これ、落ちるってやつじゃない? もう夢の中に落ちてるのに、どこまで落ちるんだ、私は……。


 これ……落ちたら目、覚めるってことかな……。



「あ、あの~」


 天使のような声が聞こえる。高くてかわいくて、澄んだ声だ。もしかして私死んだの? いやいや、ただ授業中に寝てただけだって。


 そういえば、とってもおっぱいなクラスにいる夢を見たっけ。

 大きかったな……それはもう夢心地で。


「大丈夫ですか?」


 とはいえ、いつまでも夢の中にいる訳もいかないし、そろそろ起きようか。


「先生すいません、寝てません瞑想してただけです」

「あ、起きたんですね」


 おっと、天使ボイスは先生だったか。さすが昔ミュージシャンを目指してただけはあるね。男なのに。


「いきなりこんな世界に来て、驚いてますよね。私も最初は驚きました」


 うん、どう見てもその天使、女の子だわ。っていうか明らかに先生じゃないし、ここ、クラスの中でもない。ちょっと豪華めな、ホテルのツインルームって感じだね。


「えっと……」


 目の前の女の子。

 たぶん私と同じか少し下くらいかな。黒髪ロングが綺麗でうらやましい。私はちょっとクセがあるからツインテールにしてごまかしてるのにな。

 でもおっぱいは、自分を見ているようにな壁が立ちはだかっていて握手したくなるわ。


「私、カミノっていいます。あなはたナナセさんですよね。Fクラスでの騒動聞きまして、お迎えに行ったんです。でも、まさかG級トップのアリシアさんのおっぱいを揉むなんて……」

「……」


 カミノは言いながら、おっぱいを揉むように手元にあった枕を触ってる。私も思わず真似てみると、低反発のいい枕だった。


 ……リアルだね、なんか。夢とは思えない。ちょっとふざけるのやめてみた方がいい……?


 さっき、カミノは言った。

 こんな世界に来て驚いてるよね、と。

 これ、巷で噂の異世界転生ってやつでは? 勿論リアルに起こることじゃなくて、マンガアニメ小説の中に限ることだけど。


 だけど、今の感触、あのときのおっぱいの感触。本当にそこにある、としか思えない。


「カミノさん、頭が良いって先生から聞いてます。今見てても、混乱しているというより、冷静に分析してるように見えます」

「いや、そんな……」


 私がふざけた性格だから、先生に目をつけられないように勉強だけはやってたさ。けど、別にそれだけで。


 これ以上のことは、考えても仕方ないか。目の前に答えをくれそうな絶壁がいるんだし。


「カミノ……この世界のこと、教えてよ。私が知っているのは、おっぱいに応じたクラス分けをしてることらくらいだよ」

「!」


 驚いているのかな? カミノは少し目を点にしてるみたいで。


「ごめんなさい、説明する前に言われると思ってなくて。

 まず、私はナナセさんのルームメイトになったので、よろしくお願いします。ちなみに、ナナセって七瀬という苗字ですよね。私は、神野っていう苗字だったのを思わず名乗ってしまったんです」


 やっぱりいきなり名乗るとなると、苗字言っちゃうよね。ってことは、私もこのままナナセか。名前っぽい苗字でよかった。


「私、前のルームメイトに色々助けられたんです。私が最初にここに来たときは、泣いてしまって……だからナナセさんはすごいです。私、絶対あの人みたいになりたいから、ナナセさんを迎えに行ったんです。……っと、私の話はいいんですよね。

 この世界は……おっぱいが全てを決める世界です」


 でしょうね。

 アリシアとタマキ、超でかい奴らに全力でおっぱい差別されたから。驚くとしたら、もう私がこの世界に順応してるっぽいことかな……。おっぱいなんて嫌いなのに。


「おっぱいのカップでクラス分けされていて、AからFで分けられてます」


 カミノは、バストりょくAA65みたい……私と同じじゃん。AAクラス、あるのかな……ないわな。Aクラスの中でも超格下になりそうだ……。


「でもそんな世界だから、おっぱいの大きさは変えられます」

「え」


 カミノは言った。

 他人のおっぱいを揉むと、自分のおっぱいが大きくなる。逆に揉まれた方は小さくなる、って。いやいやいや。


「まさかね」

「ひゃ!?」


 とりあえず、カミノの胸を揉んでみた。揉めないけど。揉む程ないけど。


「あれ」


 特に大きくなってないっていうかむしろ、小さくなったような?


「あ、ナナセさんは、先程アリシアさんのおっぱいを揉んで大きくなっていたんです。だから、一時的に私より大きくなっていました」


 どうも、自分より大きいおっぱいを揉まないと意味ないんだって。人差し指を立てて笑顔で語ってくれるカミノだけど、たぶん確信犯でしょこれ。私のある意味初めてのおっぱい返して!


「でね。この学園では、おっぱいは絶対です。上のクラスからの命令に逆らうことはできません」


 カミノの表情は、別に暗くなってない。ということは、そこまでその上下関係が行使されることはないのかも。

 だけど、どうやら私が属することになるAクラスは、それより上のクラス……B以上の教室に入ることもできないらしい。逆に、上のクラスなら下のクラスへの出入りは自由。それぞれクラスと寮までは直結していて、寮もやっぱり下から上への移動はできない。その間を管理しているのは先生……通称番人だって。常に各クラス間に番人がいるらしいけど……大変だ。


「あ。私がFクラスにいてあんな騒ぎになったのは、このせいか」

「私達以外にも異世界から来た人はいるみたいなんですが、どこの出現するかはランダムみたいですよ。ちなみに、私はCクラスでした」


 なんだ、私が特別ってわけじゃないわけね。てっきり私は、Fクラスの器フラグが立ってるのかと思ったのに。


「カミノ、質問。さっき、学園と寮が直結してるって言ってたけど、外はどうなってるの? おっぱい支配? あ……男もいるからそれはないか」

「ないです」


 ん?


「ないんです、外なんて。

 この世界は、この学園が全てです。いるのは学生と先生だけ。とにかく、おっぱいを大きくすることを目指しています」

「んん??」


 さっきまではなぜか受け入れられていただけど、これだけは受け入れられない。


 この学園は誰が作った? 作ったんだとしたら、当然外から作らないといけないわけで。お金もいる、資材もいる、重機もいる。学園がなかったとしても、生きるためには食べないといけない。さっきから私もカミノもチョコをつまんでるから、食べ物はちゃんとあるみたいなのに。それはどこから?


 けど、カミノの口ぶり。たぶんカミノも分からないし、分かっていても答えれくれなそうなんだよね。


 ……これ、考えた所で分かることじゃない。

 それに、私は気絶して起きたのに、まだここにいる。なーんか、ここで生きろって言われてる気がするんだよね。おっぱいに埋もれそうなこの世界で。おっぱい嫌い、コンプレックスを消せれば直るかもしれない。


 何よりこの世界、何かを得るにはまずおっぱいのようだから……。


「カミノ! 私は巨乳になる!」

「おお! その意気です!」


 おっぱい、揉んで揉んで揉みまくることが、色々知ることが出来る、近道と見た!

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