★★★ Excellent!!!
『レビュー』の『レビュー』という『レビュー』 バケツエンターテイメント(脚本アーカイブ
本作の大きな特徴と言えば、レビュー形式で展開されていくことだろうか。全盛の時代には、群雄割拠で点在していたゲームやマンガ、アニメなどのレビューブログ。『The video game with no name』は、そんなかつての匂いを残しながら、架空のゲームについて多種に渡って書き綴られていく。
しかし、そこだけ切り取ると「いや、ただのレビューの何が面白いのか」と疑問に思う方もいるかもしれない。カクヨムというのは小説投稿のサイトだ。そんなサイトにレビューなどはいらないと辛口コメントを残したくなる気持ちは一旦押さえて是非本文を見てもらえれば幸いだ。
なんと今作『The video game with no name』は、すべて『未来』のゲームについてレビュー投稿されている。しかも異世界転生や異能が学園で戦うバトルものの世界観とは異なる、我々が生きているこの現実が進むことで訪れるであろう『未来』に発売されたゲーム。
この『未来』の、という言葉が付随するだけで架空のゲームレビューがSFの世界観に早変わりし、商品について語る文章が物語性を持ち出すのだから面白い。加えて作者の描写や細やかな設定によってレビューの嘘が本物だと錯覚してしまうくらい精巧に作られているため、架空のレビューという視点だけでも十二分に楽しめるのが二段構えで素晴らしい。
当作品はゲームの発売日によって語られる時間軸が前後する。つまり、時間軸の破綻が少しでもあれば読者は矛盾を感じて気持ちが萎えてしまうところを作者は完璧に書き振る舞い、なんなら別のレビューで出て来た作品をほかのレビューで出すなど仕掛けも上手く設置されており、深く読めば読むほど知的な好奇心はみたされていくことだろう。
なにより、この作品がただのレビューではなく物語として機能しているのは、レビュー投稿者自身の近況についても触れられる…
続きを読む