第10話 館の誘い
ピッ、ピッ、ピッ 、
なんだ…… この音は……
「じぃーや、彼の容態は?」
桜野……美玲? か、体が動かない。
僕の体は動かそうとしても鉛の球で抑えられいるかのようにびくとしなかった。
「特に変化はございません、お嬢様。やはり、彼は……」
このアゴヒゲを生やした男性のご老人は……顔がキリッとしていてとても、かっこいいじゃないか!
「何言ってるの! あの病院はもうつぶされたのよ!」
「私くしもそのように聞かされておりすが、ですが、この数字は……」
一人の老人が桜野美玲に何かを見せた。桜野美玲は一瞬、驚いた表情を見せるも首を横に振る。
え…… 何、その反応! それ、僕のこと?
「確かに、この数字は実験の数字と類似しているけど…… 彼は一体何物?」
「お嬢様、彼の体の中を見てみましょうか?」
「そうね。意識がないうちに……」
桜野美玲の返事を待ってから男性のご老人はポケットから鋭利な刃物を取り出した。それを迷いもなく僕の体に近づけてくる。どうやら、このご老人は麻酔もなしに僕を手術するらしい。
いや、死ぬって!
僕は自分の意識が戻ってることを知らせるため声を上げようとしたが、桜野美玲が手で僕の口を防ぎにきた。もちろん、わざとだ。さっきから何度も桜野三玲と目が合っている。
「じぃーや! はやく!」
なにが、はやくだ! じぃーや、待って!
「お、お嬢様その御方は意識が戻ってなさるのでは?」
じぃーやは賢明だ。じぃーや、見てくれ!この僕の暴れまくっている手足を、はやくしないと呼吸が……
「いいのよ! どうせ、また意識失うから!」
「それは、お前のせいだろ!」
もがき続けた結果がこれか。最悪のタイミングで、桜野美玲の手が離れたものだ。見事に僕の心の声が漏れてしまった。
「へぇーあなた、誰に向かってお前って言ったのかしら? 今のあなたの状況分かっての発言でしょうね」
そうだった。僕は今手足を固定され身動き取れないのだった。意識が戻ってから周りを見渡しているがたくさんの検査機器らしきものが並べられている。僕がここで何されていたかなんて想像もしたくないような部屋だ。
「さ、桜野美玲お嬢様…… 貴方のようなお美しい方をお前扱いなんてするわけないでしょう」
「あら、ありがとう。でも、ここには私しかいないわよ」
冷たい風が吹き込んできているのか、僕の体が凍えてきた。
「じ、じぃーや?」
「じぃーやは外にあなたの固定されている鍵を取りに行ったわよ」
桜野美玲は真顔でウフフと笑う。僕はハハハと笑う。半泣きで…… じぃーや、賢明すぎるよ。この後の惨事は刺激が強過ぎるので、ここでは語れないが、次に僕が目が覚めたときはもう夕日が沈む夕方だった。
ガチャ。
部屋のドアノブが周り、扉が開く。入ってきたのは桜野美玲にじぃーやと言われていた一人の男性のご老人だった。
「お目覚めなりましたか、結城様。御夕食の準備ができております。付いてきて下さいませ」
「は、はぁ……」
まだ、頭が寝起きでボーとするなかじぃーやの後を僕は付いていった。歩く度にギシギシと木造建築の特有の音が鳴る。桜野美玲は噂通り、とんでもないお嬢様なのかもしれない。絵画、壺、僕が見たことない置物がたくさん並んでいる。部屋の数も僕が出てきた部屋以外にもいくつもあった。
「ここは、珍しいですか?」
じぃーやは僕がキョロキョロと見渡しているのが気になったのか僕に話を振ってきた。しかし、顔だけではく声もこのご老人は素晴らしい。一瞬だが、あくまでも一瞬だが僕はドキッとしてしまった。男性ならではの低い声でもありながら、荒くなく耳にスッと入ってくる。その声で、耳元ささやかれた女性は骨抜きにされるだろう。
「そうですね。あまり、こういう場に慣れていません。え、えーと……」
「おっと、これは私としたことが申し遅れました。私くしの名前は桜野 重蔵と申します。ここの館で桜野美玲お嬢様のお手伝いをしております」
「桜野?」
「桜野家では代々分家のものが本家にお仕えするお決まりとなっております」
「そうでしたか。あっ…… す、すみません。僕の名前は宮城結城です」
「これはこれはわざわざありがとうございます。さぁ、せっかくの夕食が冷めてしまいます。この先です」
桜野重蔵はこの館なかでも特別大きな扉を開けた。僕の目の前に光が広がる。その場所は現実とはかけ離れどこもきらびやかに幻想的に僕を誘った。
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