第6話 私とあなたは同類よ

「何物か…… 今さらの質問ね。それを聞いてあなたはどうするの?」


「何もしないさ。言っただろ、僕の保身のためだ」


僕は先程から、ずっと桜野美玲に銃口を向けているが、桜野美玲は眉ひとつ動かさず目を据えて僕を見ている。


「私はあなたと同類よ」


「ふざけるな! 僕がどうしてお前と……」


桜野美玲は僕の言葉を遮るように手を前に出してきた。その動きに、僕は警戒して一本身を引いた。


「そんなに警戒することないわよ。安心しなさい、私は関係ない人は殺さないから。それに同類だとなおさらね」


「だから、同類って…… 何のことだよ!」


やれやれと桜野美玲は首を横に振る。その態度にいらつきを覚えながらも僕は引き金を引くことなく、桜野美玲の次の言葉を待った。


「あなた、さっき言ったじゃない。自分は流行ハンターだって」


「ち、違うだろ。あれはお前があぁ、言えって……」


「まさか、同類がこんなところにいるなんて知らなかったわー」


わざとらしく語尾を伸ばしてくる桜野美玲はもう、僕の話を聞くつもりはないらしい。まぁ、それでもいい。僕が言った事実なんてどこにもないのだから。


ピッ


『俺はお前らが隠し持っている『流行缶』を狙ってきた一流の流行ハンターだ! その女は俺が勝手に連れて来て関係のない女だ。離してやれ!』


「そ、それは!」


「この声、聞き覚えあるわよね?」


桜野美玲が手に持つ音声録音機から僕の声が流れてきた。もう、ぐうの音も出なかった。ここまで用意周到にされては僕に逃げる隙なんてない。僕は銃口を桜野美玲から下ろし、後ろポケットに銃を突っ込んだ。


「うん、賢明な判断よ。では、同類になったあなたに私たちの活動について説明するわ」


どうやら、桜野美玲は僕を逃がすつもりはないらしい。聞きたくもない説明がまた、だらだらと始まった。説明が長くなったので僕が要約しよう。この桜野美玲は悪い『流行缶』を倒すために活動している正義の味方らしく、仲間もちらほらいるらしい。名前は流行ハンターとされているが、その名前はださいと自分ではトレンドハンター……略してトレハンと呼んでいると言い張った。多分、どこぞのアニメに影響されたのだと考える。


「まぁ、こんな所かな。『流行缶』は缶けりと一緒で缶を倒せば、缶の活動は停止して、人は『流行缶』からの洗脳から解放されるわ」


「それはもう、聞いている。それで、『流行缶』はどこにあるんだ?」


「あら、どうして私がもう『流行缶』を見つけたと思っているの?」


桜野美玲はニコニコといたずら心に満ち溢れた表情をしている。さしずめ、また、僕を貶めようとでも考えているのだろう。しかし、そうはいかない。


「ここまで用意周到されたら、さすがの僕でも分かるよ」


桜野美玲のその表情に僕もニコッと笑い返した。僕が見せる初めての対応に少し驚いたのか目を少し大きく見開いた。


「いいわ。あなたがどこまでこの状況を理解できているか説明してみなさい」


「―― 分かった。まず、この工場に来てあなたは僕をわざとここの警備員に捕まえさせた」


「なんのために?」


「この地下の存在を確かめるため。そして、実際に地下は存在した。あなたは地上を調べた後、警備員に捕まりこの地下まで連れてこられた。いや、案内させたかな?」


「どうして、地下があると私は分かったと思う?」


「それは、僕が持っている携帯かな?」


僕は自分のポケットに閉まってあった携帯電話を取り出した。僕のここまで説明にどうやら間違っている所はないらしい。その証拠に、桜野美玲は楽しそうに僕の話を聞いている。


「そう、私はあなたの携帯の位置情報をオンにさせてもらったわ」


僕は学校で一度こいつの前で携帯電話を開いている。この携帯に掛かっているパスワードはその時に盗まれたのだろう。今、考えると迂闊だった。


「メアドもその時、盗んだ」


「それも、正解」


「地下の警備員は普通の警備員と明らかに違った。そして、あなたは確信したはずだ。『流行缶』があるのはさっきまでいた、ドーナツ設計のところだということを」


これで、僕の話しは終わりだと最後に付け加えると、桜野美玲は僕の話に満足げに何度も頷いた。


「良くできました。さすがに驚いたわ。全て当てるのだもの。それでは、『流行缶』を倒しにいくわよ」


「僕も?」


「当たり前でしょ、あなたは私と同類なのだから」


桜野美玲はそう言いながら、懐からまた何かを取り出そうとしたが、僕は顔を逸らしながら、それを手で制した。もう、充分だ。こいつが取り出すものにろくなものはない。あらかた、また録音機で僕を脅すつもりなのだろう。


「付いていくよ。その代わり、もう囮は勘弁だ」


「大丈夫よ。あなたには、ここまで頑張ってもらったのだもの、最後に華を飾らしてあげるわ」


不適に見える桜野美玲の笑顔に不安を覚えながらも、僕は桜野美玲と共に缶蹴りの戦いの場へと向かった。


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