第4話 歓喜のままに……
今日、僕はいつもの通り朝ベッドで目覚め、朝食のかつ丼を食べ学校に向かった。その後も、学校でもいつも通り授業を受けるはずだったのに……
「どうして…… こんなことになってしまったのだ!」
「うるせぇーぞ! ガキ!」
「は、はい。すみません!」
僕は今、理由あって檻の中にいる。僕の周りは鉄格子で囲まれており、長年手入れがされてなかったのか所々さび付き、鉄臭い。檻の外に小さな豆電球が一つあるだけだから、檻の中は薄暗く、自分の周りは、はっきり目視することができない。しかし、この檻にトイレがあることは確かだ。なぜか? それは自粛させてもらう。一つ言うなれば、刺激臭がするということかな。やばいです。吐きそうです。
コツ、コツ、と懐中電灯の光とともに僕に近づく足音。どうやら、見張りの交代の時間らしい。一人の男が鼻をつまみながら、僕の前を通り過ぎていく。右手に懐中電灯、背中には銃がぶら下げてある。薄々感じてはいたが、ここの工場はもしかしたら普通ではないかも知れない。
―― あいつ…… 大丈夫か?
ふと、思い出したのは出刃…… 桜野美玲の笑顔だった。客観的に見たら、あれはかわいかったと思う。僕の言葉の知識ではとてもではないが表現しきれないが、とりあえず暇なので表現してみよう。大きな黒い瞳に、乾くことない雪のように白く透き通った肌。プリンのようなツヤのある唇もなかなかのものだ。彼女が笑顔を浮かべると、背の高さや、胸の大きさ……いや、見てないぞ! あくまでも見た感じだ。幼児感がでてしまうが、魅惑的な唇と相まってとても色っぽい笑顔になる。街でもし、彼女が笑顔を振りまけば、何人の男があの笑顔に振り返るか分かったものじゃない。
「ちょっ…… ねぇ」
「まぁ、でもあの出刃包丁が普通のことで笑うことないから、確認しようがないわ。ワ、ハッ、ハッ、ハッ!」
「誰が! 出刃包丁よ!」
僕は首のグキッという音ともに、そのまま前に倒れた。どうやら、僕を殺そうと目論む暗殺者が手刀で僕の首に大打撃を与えたらしい。僕は本日、二度目の眠りにつこうとしたが、キシキシという右ひじの痛みによってそれは強制的に起こされた。
「イタイ、イタイ! ごめんなさい。もう、許して!」
「それが、私に対する礼儀かしら? 誰に聞いているのか分かっているの!」
その言葉の後、僕はすぐに額を地につけた。我ながら、迅速かつ賢明な判断だったと思う。とりあえず、これで身体的な痛みはなくなったのだから。しかし、どうして出刃包丁がこの檻の中にいるのだ? こいつ確か、僕を裏切って中に入ったはずだぞ。
「あのーどうしてあなたが、ここにいるのですか?」
「そんなことも分からないの? あなたと同じく、捕まったに決まっているじゃない」
あぁ、分からない。この出刃包丁は何を言っているのだ? 捕まったということは正体がばれたということだよね。ゲームだったらゲームオーバー…… でも、これは現実だから再スタートできないわ。ハハハ、終わった。
「ったく。聞いてよ。あいつら、私に向かって働けって命令してくるの! むかついたから、殴ってやったわ」
―― なにしているのだ、こいつは!
「そうしたらね、周りを警備していた奴らが銃を突き付けてくるから、しぶしぶこの檻に入ったわけよ」
もう、ため息しかでない。しかし、むかつくから口には出さないが、まぁ元気でなによりだ。
「これから、どうするのです?」
「どうするって…… 脱出するに決まっているじゃない。あなた、ここの交代のタイミング分かる?」
「確か…… 一時間、ちょっとはず」
僕は腕に身に着けていた、腕時計を見て確認した。桜野美玲も自分の時計で時間を確認している。
「ふむ…… だったら今このタイミングで脱出ね。この檻破ったら一気に走り抜けるわよ。足に自信は?」
「僕の足はあなたが一番知っているのでは?」
僕は屈伸運動をして今まで、固まっていた筋肉をほぐす。パキパキという音の後、血液が流れ筋肉が温まるのが分かる。桜野美玲はさびた鉄格子に何かセットしている。
「そうね。あなたの逃げ足だけは認めてあげるわ。だから、あなたがおとりにね」
「は?」
僕の間の抜けた返事と同時に桜野美玲が設置した爆薬が爆発した。カラン、カランという音ともに鉄格子が崩れ落ちていく。しかし、古い建物のせいか土煙がすごい。爆発の衝撃でたちまち僕の周囲は土煙に包まれた。
「うぷ…… ごほっ、ごほっ。前が見えない」
「真っすぐ出て、右に走ればいいのよ」
「分かった」
桜野美玲の姿は見えないが確かに、彼女はそう言った。僕は返事をしつつも左に出た。僕には考えがあった。爆発音ではっきり聞こえなかったが桜野美玲は『おとり』と言った。これはもう一度、僕を罠にはめようという思惑があるのだろう。だったら、話は簡単だ。桜野美玲が仕掛けた罠にはまらによう彼女の命令と反対方向に走ればいい。僕は全速力で土煙を走り抜けた。周りの視界が晴れると、危険がないか確認した。僕の思惑通りか周りには誰もいなかった。
「や、やってやったぜー!」
全力で僕は拳を天高くつき上げた。神様が最後は僕の味方をしてくれたのだ。僕は神様から頂いた道をただ、まっすぐ走り抜けた。歓喜のままに…… しかし、この選択が僕の未来を大きく揺るがすことになるとはこの時は思いもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます