小説という形でしか成し得ない、スイカになった彼女の不思議な魅力

  「かにみそ」というホラー小説があります。

 ここで商業出版されているホラー小説のネタバレを語るつもりはないのでストーリーの話は割愛します。言いたいのは、その小説に喋ったりテレビを見たりする蟹が出てくるということです。見た目は妙に大きいだけのただの蟹。でもその蟹がとても愛らしいんです。面白くていい奴なんですよ、すごく。こういう友達欲しいなって感じで。普通に人とか喰うんですけど。

 この小説を読んだ時、その「かにみそ」のことを思い出しました。

 この作品の中で、主人公の幼馴染はスイカになります。「スイカみたいに〇〇」という逃げ道は一切ありません。完膚なきまでにスイカです。丸くて緑色のアイツです。そして、そのスイカになった彼女が実にかわいらしい。スイカなのに。映像にしたらどうしたってシュールギャグなのに、文章で読むと愛くるしくてたまらない。小説でしか成し得ないその不思議な魅力は、瞬く間に読み手を虜にしてくれます。

 でも、スイカです。

 主人公は人間で、彼女はスイカです。彼女が魅力的に書かれれば書かれるほど、その事実は主人公および読み手に重くのしかかります。そして、やはり彼女はスイカだったと、分かってはいたけれど分かりたくはなかった事実をつきつけられた時、意味深なタイトルが読み手の心に突き刺さります。

 意味不明なほど理不尽なのに物語に入り込んでしまい、笑えるほどシュールなのに真っ当に切ない。内容から読後感まで、とにかく不思議な小説です。是非ご一読下さい。

その他のおすすめレビュー

浅原ナオトさんの他のおすすめレビュー75