自虐家は雨に濡れる

ああ、やってしまった。つくづく自分は愚かだと自嘲する。

昇降口から出てみれば、雨降り。ザアザアとよく雨が降っている。収まる気配はなく、みれば道路には水の溜まりが広がっている。

そして、自分の手持ちには傘もカッパもない。自分に傘を貸してくれる友達もいないし、入れてくれる友達はもはや論外でもある。今日は唯一友達と言える現命も欠席。

……残念ながら、自分は雨に濡れるしかないらしい。

「やっちまった」

正直、それしか言葉が出ない。

学校から家まで歩いて30分。走れば……途中で体力は尽きるので変わりはしないか。

自分の慎重の足りなさをつくづく後悔する。まぁ、もう後先立たないのだがな。

だから、自分は駆け出した。雨に濡れることなんて、もうしょうがなかった。このままでも、どうせ雨は止まないのだ。濡れて帰るほかないだろう。

大粒小粒の水滴が体をまばらに撃つ。ひどく冷たくて、嫌になる。下手をしてしまえば、風邪まで引いてしまうのかもしれない。そんな自分が愚かしいと思うことさえも愚かしくなってくる。

雨は止まない。それどころか、増していく一方だ。体も手や、足が氷のように冷たくなるのが身にしみてわかる。

街行く人は皆傘をさしてはいるが、傘をささず走る自分には一切目をくれはしない。当然、傘を差し出してくれる人もいない。

薄情なのだな、人間。自分が言えることではないけれど。

流石に息が切れてきたので、自分はどこか休憩できる場所はないかと探す。しかし、そんなようなところは目の前に一つもあらず、結局自分は走ることを余儀なくされた。

走って、走って、走って、それでも家はまだまだという気がする。血反吐が出るほど苦しい。頭が朦朧とする。体力のない自分には当たり前の現象である。


こんなとき、もっと友達がいたら。


そんなことを、馬鹿馬鹿しく考えると。でも、やはり考えたくはなってしまう。

傘を貸してもらえればこんなに苦しまずに済んだ。傘に入れてもらえれば冷たさが身にしみることはなかった。

こんなに、孤独を感じなくてよかった。

自分はどうしようもない利己的な人間なんだから、そうやすやすと友達になってくれる人間なんていない。だからと言って、友達がいらないわけではないのだ。


誰かが言った。人間、一人で生きていけるわけがない。


自分は、それが正しいと思っている。だって、そうだろう。一人でいるだけで寂しさに押し潰されそうになっているのだから。

誰かと話すだけで、誰かといるだけで、どこか心は満たされるのだ。

時には喧嘩して傷つけ合うときもあるだろう。それもまた一興じゃあないか。だって、そうして絆は深まっていくんだろ?

しかしながら、自分にはそういう奴は現命ぐらいしかいない。あの、正論ばかり言う女しかいないのだ。

あいつだけでも、確かにいいけれど、どうせならもっと欲しいというのが人間の、当たり前な欲というものだ。


とかなんとか言ってみせるが、自分はやはり薄情者であるからして、友達はできない。できていたら、こんな雨の中を一人で走っているわけがない。

自分にとって友達が欲しいというのは、無い物ねだり以外の何物でもない。友達が欲しいというなら、この自分の性根腐った性格を直さなければ、到底友達なんてできるはずがない。

もし、自分を友達だと言ってくれるやつがいるのなら、そいつは馴れ馴れしいやつか、途方もない変人である。


まぁ、それでも、受け入れてやらないことはないのかもしれないがな。


雨は止まない。家はまだ遠い。自分は結局ただ一人。

明日も学校はある。けれども、この調子だと、風邪をひくのは明白だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る