自虐家は人に見られる

・今回の話を読む前に。

猫宮噂さん作Stand byより主人公、洲岸満さんを今回の話を書くにあたりお借り致しました。こころよくお貸しくださいました猫宮噂さん、本当にありがとうございました。


では、本編をどうぞ


……


どこまでも、どこまでも、どこまでも勝手な人はいるのかもしれない。自分みたいな多くの子供は誰だってそうである。子供はどこまでも勝手に動く。それを矯正するために学校というものに行くのであるが。

しかし、今回ばかりは学校の外の話だ。子どもはこの字も出てはこない。学校は、出てはこない。

ではどこの話かといえば、自分の外の人間関係の話だ。個人的な、あまりにも個人的な人間関係だ。

……あまり築きたくなかった人間関係ではあるのだがな。

しかしまぁ、偶然築かれてしまった人間関係というのもたまには良かろうて。友達がいることは、悪くないことだ。

普通の友達であればの話だが。

友人とは言い難い。知り合いと言ったところか。そんな奴に、自分を傍観者だと名乗る男がいるのだ。

自分にとっちゃ全くもって不愉快極まりない。傍観者なんて気取って、人を見つめるだけってのが気にくわない。

どうしてだが、気にくわない。


『洲岸満』


それがそんな男の名前だった。

そんな男と今日は出くわしたのだ。折角の休日なので出かけてみたところ、あんまり出くわしたくない男に出くわしてしまった。

「よう、少年。こんなところで出会うとは奇遇だな」

自分は何にも言えなかった。多分しわを寄せた顔になっている自覚だけはある。それほどに、会いたくなかった相手であった。

「そんなに嫌そうな顔をするな。ええとなんだっけ……そうだ、自虐家くん」

そう言いながら、どこか自分を見下した風な目をしている。

いや、確かに見下されているのだが。電車の中で自分は座り、対する洲岸満は自分の目の前に立っている。見下されている以外のなにものでもなかった。

正直こいつに物理的に見下されるのも嫌なのだ。癪にさわる。傲慢そうに見えてならない。

「で、自虐家くん、今日は君は何しにこの電車に乗っているんだい?」

飄々とした口ぶりで洲岸満は言う。が、自分は一言も答えなかった。都会の大きな本屋で本を見に行くだけなのだがそれすら言うのが億劫だった。

「何も言ってはくれないのかい。まあ、それもそれでアリだ」

とかなんとか言って、自分の隣に座る。付かず離れず、適度な距離だ。

これで社会人だというのだから、大人だというのだから少しばかり面食らう。こんな大人がどこにいようか。自分を傍観者だとして世界を眺める社会人がどこにいようか。

勝手なのは子供だけではない。大人でも、勝手な大人はいるものだ。

隣にいる男がその通りの男だ。どこまでも勝手な目で世界を見て、勝手に世界を解釈する。

傲慢なやつだろう、傍観者というものは。

多分、自分が洲岸満を嫌うのもこの辺にあるらしい。と、気づいたのはこうして考えた結果なのだが。

そして、こんなことを考えてる自分の姿も、洲岸満はただ傍観しているのだろう。振り向かなくてもわかる。

もしかしたら、この男のことだ。見ているだけで自分の気持ちとか手に取るようにわかっているのかもしれない。不愉快極まりないが、此奴の見る目は確かなのだ。傍観者としての目は……な。

そこだけは感嘆するぜ、なんてかっこつけて間もなく電車はガタリと止まった。見れば、すくっと洲岸満はその場を立つ。

「俺の目的の駅だから、今回はこれで失礼するよ。しかし、君の考えていることは、本当に顔によく出るみたいだ」

なんて捨て台詞を吐いて、洲岸満は電車を淡々と降りて行った。

やはりというか、何というか、自分の考えはこの男になり対しては丸見えらしかった。

別に隠すようなことでもないし、いつか自分で言っていたことなのだからこればかりは気にすることはないだろう。

でもやはり見られている上でこう言われるのは自分の癪に障るのは確かだった。本当にあいつは嫌いだ。

何度も繰り返すようだが、傍観者なんてただの傲慢な男でしかない。人を見るより自分自身を見ろっていうんだ。


とまぁこんなこと言っている自分も、多少なりは傲慢なのかもしれない。まさに言葉のブーメランというやつか。


電車は再び動き出す。

今日は学校は休みである。改めて休日を謳歌しようか。

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