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近作「ベスト・オーディエンス」について。


 普段、作品の裏話なんかは、全部紹介文の中に入れてしまうことにしてるんですが、この話についてはバックステージで内緒話っぽく語った方がよろしかろう、という裏事情がありますので、こちらに書きます。

 本作は湾多にとっての、ほとんど唯一、文章で収入を得た例……のなり損ないの作品です。わけが分かりせんね 笑。

 では、順を追って。
 その昔……と言ってもたかだか十五年程度前ですが、多少文章の腕に覚えのあるアマチュア作家には、比較的ハードルが低い(と思われた)ショートショート作品の投稿先が三つありました。隔月刊(後に季刊)「コバルト」、小説現代、ハヤカワSFマガジンです。
 このうち、SFマガジンは結構しっかりしたSFアイデアがないとダメっぽくて、阿刀田高氏が選考委員を務める小説現代のショートショートコンテストは、湾多的にはどうもとりとめがないというか、どういうレベルの話なら目をつけてもらえそうなのか、明確に対策が立てにくい投稿先という印象がありました(今もあります)。
 で、消去法的に「コバルト」が残ってしまうわけですが、ここは実際、少女向けレーベルという外見に反してショートショートに関しては結構オープンで、コメディでもライトSFでもホラーでも文芸調でもOkという懐の広さがあり、かつ、「このレベルのオチがつけられれば入賞できる」というラインが割合はっきりしてる感触がありました。

 というわけで、ある時期から「いっぺん狙ったろう」と少しマジになって、湾多は自分なりにスキルを磨きました。しばしの曲折を経て、ようやくのことでまあまあイケてそうな二作品を選抜し、投稿にこぎつけました。一作はこの「ベスト・オーディエンス(タイトルは別のものだったかも知れません)」、もう一作は、水準的に少し落ちるものの、投稿の抱き合せとしては悪くないと思えた、社会風刺的なバカ話。
 いい加減忘れかけたある日、コバルト編集部から薄っぺらい郵便を受け取りました。中には郵便小為替が一枚と、連絡文。なんと、投稿から半年以上も経ってから、ショートショート佳作入賞が決まったとのこと。小為替は賞金です。湾多は大いに驚き、喜びました。が、さらに文面を見て、およ? と目を疑いました。対象になったのは、水準が落ちると思っていたバカ話の方だったんですね。
 自分が選者なら、絶対に「ベスト・オーディエンス」の方を取るのになあ……と、やや釈然としないものを感じつつ、じきに「コバルト」の発売日になったので掲載を確認し、そこでふと思い立ってその一つ前の号の「コバルト」を調べてみて、事情が分かりました。
 直前の号のショートショート投稿欄では、まさに「ベスト・オーディエンス」と同じようなネタで最優秀賞を取っている作品があったのです。
 もちろん、投稿のタイミングからしてこちらがその作品を安易に真似したわけではない、ということは編集部も承知しているわけですが、ネタがかぶっているものを次号の入選作にするのは具合が悪い、との判断が働いたのでしょう。で、これは穿った見方かも知れませんが、もしかしたら私の佳作入賞は「前号の最優秀作と同レベルの投稿をしてくれたのに、無冠というのは哀れだ。もう一つの投稿作、しょぼいんだけど、これで埋め合わせしてやろう」みたいな配慮がいくらかでも働いた結果なんでは……などと想像したりもします。働いたとしても、ギリギリの当確ラインで効いたレベルの材料でしょうが。

 というわけで、本当なら今回のこの作品、某ライトノベル系文芸小説の投稿欄で、結構いい評価をもらえたかも知れない文章なんですよ、と、誇大妄想気味に宣伝しておきます。ええわかってます。そんなのは全部湾多の妄想だ、という考え方もできるわけで ^^。今となってはどうでもいい話ではありますけれど。

 ちなみに本作は、投稿時そのまんまだと、近未来SFとしては語彙がイマイチなところがあったので、そのへんに手を入れてます。今日び、オチのキレがどこまで通用するか分かりませんけれど、ストーリーのひっくり返し方そのものは自分でもまあまあ気に入っている作品です。
 どうぞご笑覧ください。

4件のコメント

  • 阿刀田高という名前を聞いて居ても立ってもという程ではないですが、僕の根底に居る作家の一人だと考えてるもので。元はラジオドラマから入り、十代が読むには大人な作風ながら嵌ってました。確か当該のショートショート賞にも何回か応募した記憶もあります。

    定額小為替って懐かしい。今時の賞金はどう支払われるのか。

    昔、漫画の持ち込みをしてた頃、小学館の編集部で、芳しい評価は貰えなかったけれど「努力賞だったらあげるよ、途中の展開は予想外で驚いたし」と誌面に名前だけ載って、その時の賞金一万円が定額小為替だったような。白泉社ってとこから突然、定額小為替が届いた時もやっぱり努力賞でした。

    あの頃はまだ無根拠の勇気があったなぁと遠い目です。持ち込み時に聞いた「自信を持って貰う為に賞の一次審査は全員通す」との内幕には唖然としましたな。
  • そうざさん、コメントありがとうございます。

    阿刀田高先生、なおも健在でいらっしゃるようでなによりです。間違いなく、日本のこのジャンルの大恩人であることは間違いない方ですね。ただ、私自身の感覚ではですが、あの人のショートショート観は、川端康成の「掌の小説」とか、そっちの方のイメージが大きいのではないかと思ったりします。星新一とか、小松左京のSFっぽいのを真似してアクの強いオチだけ書いても、ついっとスルーされそうな感じというか 笑。
    先日もショートショートコンテストの入賞作品集手にとってみたんですが、どういう基準で選んでるんだろう、という感想は変わりませんでした。ええ、まあもちろん、誰が評者になっても、別の誰かが突っ込むのが当たり前だし、それこそが阿刀田先生流だと言えるのでしょうけれどもね。

    >定額小為替って懐かしい。今時の賞金はどう支払われるのか。

    雑誌の編集部から賞金を送るためにこそあるような制度ですよね w。
    しかしマンガ書いてた人って、カクヨムに結構いるもんですね。私が小説に少し本気になった頃は、もう「原稿の持ち込みは迷惑だからやめろ」とか言われてましたが、マンガは基本、すぐに読めて判定できるから、今でもありだそうで。
    正直なところ、賞金そのものよりも、目の前でプロ編集さんから話を聞いたり、その世界の空気感を感じたり、という経験を積みたかったです。その点では、持ち込みで会社めぐりしてました、なんて経験談は、なにやらうらやましいですね。
  • いやー、暖冬です、図書館への上り坂で汗だくに……『復讐は彼女に』を読みました。

    そうそう猫の主観から始まり……雄との情事なんてあったっけ?
    もう赤ん坊が……別の猫の仕業?
    刑事なんて出て来たって? 犯猫が無残に殺される?
    子猫は出て来ない? しかも真犯人は別に?
    本当にこの作品で合ってる??
    ……でもラストシーンは何となく記憶の通り、でも大人の顔に乗っても直ぐに退けられるんじゃ……読了。

    猫の擬人化的一人称だと記憶していたのに、飽くまでも客観描写的三人称でしたな。

    それにしても、最初から猫のアンソロジーとして括られているので、早々に仕掛けがバレるのではと思ってしまいました。そこは眼目ではないという事なのか、僕が勝手に擬人化小説と捉えてしまっていたからか……僕の記憶だけで別作品を書けるくらい違っていた事に改めて吃驚でした。書いてみようかなぁ。
  • そうざさん、コメントありがとうございます。

    「表現のきざはし」で話に上っていたお探しの作品、こちらも遊び感覚で地元の図書館データを漁ってみただけだったんですが、ご報告までいただきまして恐縮です。うーん、やはり記憶とはあれこれ食い違うもんなんでしょうかね。類似のストーリーが別にある……というか、元ネタに当たる小説がさらに存在する……んでしょうかね? でもここまで大枠が一致してると、はっきり盗用みたいな話になってしまうし。

    >早々に仕掛けがバレるのではと思ってしまいました

    仮にそうであってもぜひ紹介したいと編者が思ったんでしょうね。もっとも、今回の事前情報を知らずに読み始めたら、私などはやっぱり騙されただろうなあと思いましたね。それぐらいうまくミスリード作ってました。私はこの作家、他の作品読んだことがないですけれど、こんな書き手もこの時代にはいたんだなあと、昭和の層の厚さを改めて認識した気分。

    >僕の記憶だけで別作品を書けるくらい違っていた事に改めて吃驚でした。書いてみようかなぁ。

    いささか蛇足っぽいですが、私が今年の夏前にアップした「幸せの無言歌」のケースでも(これも今回のこれとオチは同じなんですよね。というか、それだけの作品)、ジェフリー・アーチャーの短編が元ネタですと断った上で、堂々とバージョン違いみたいな類似作品書いたんで、よろしいんじゃないでしょうか。そういうことが許されるのも、投稿サイトの気安さだと勝手に思ってます……許されるよね?
    書かれたら読みに行きますんで w。
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