第十六話まで何とか週四の発表ペースを続けてきました「美緒とチューバ」ですが、ここに至って完全に自転車操業になってしまっております 汗。まだもう二話ほどは持ちそうなんですけれども、仮に「やっぱ無理っす!」となった場合、中途半端なところで一時休止してしまうのもよろしくありません。
そこで、ちょうど話が折り返し点を過ぎたところでもありますので、ここで一週間ほど連載の休止期間をいただきたいと思います。続きは10月18日から一応週四のペースでの最終話までの公開を考えています。終了は11月初旬に食い込む形になるのではないかと。
ここまで読み継いでいただいている方には肩透かしのような形で大変恐縮ですが、来週以降に引き続き物語をお楽しみいただければと思います。よろしくご了承ください。
……というご連絡と直接つながる話ではありませんが、この10月2日に作家の津原泰水氏がお亡くなりになられたとのことです。私自身は津原氏の作品など二、三作しか読んでいないのですけれど、その少ないうちの一つが、かの吹奏楽小説の名作と言われる「ブラバン」でした。「美緒とチューバ」とは方向性の全く違う作品ではありますが、改めて思い返すと、私自身この作品には「音楽小説たるもの、どうあるべきか」ということを色々考えさせられた気がします。
正直、最初に読んだ時は「なんと夢のない物語かっ」と思ったものです。それも当然で、高校時代のシーンは別段コンクールで栄光を目指すという話ではないし(というか、コンクールとか定演などというレベルの部活ではない)、今ひとつ煮えきらない展開の後は、一足飛びに時間が進んで、中年になった元部員達が、なんだかこれまたうだつの上がらない話でもやもやしているというか 笑。
二十代より下は、それこそ「響け!ユーフォニアム」みたいなわかりやすい青春グラフィティを至上としますし、「ブラバン」を読んだ当時、私もまだそういう物語ばかり求める気分から抜けきれないでいました。が……ラスト近くになって、全然世の中を救ってもいないし冒険の旅にも出発していないうらびれたおっさんたちが、とにかく集まってまた音楽やろうぜ、みたいな目標に向けて動き出していくところを読んだ時に、なんだかこれはとても尊い物語を見ているんじゃないかという気分になってきたのです。
まあ有り体に言えば、ようやくその頃になって私も中年のリアルというものを理解しだしたと言うことなんですが、一度そういう小説のあり方というものが解ると、延々ときらびやかな成功物語を再生産しているコンクール小説の類が、なんと薄っぺらく見えることでしょう。成功する若者の話、というのは、それはそれでよいのですが、その栄光の瞬間だけを美しく演出し続けるというのはいかがなものか。それは小説の名に値するのか。
と、そういう文学批評めいた話はさておき。
率直に言うと、「ブラバン」は、私の感覚では音楽小説とは呼びにくいです。でも、音楽というもののリアルな力をテーマとし、音を支えに生きようとしている人々を優しく肯定している、味わいのある小説です。その意味では、浅い音楽小説よりも、はるかに読み応えのある作品であると言えるでしょう。
音楽をテーマに物語を作るのなら、こういう懐の深さがなければな、と思ったものですが、それはまさに言うが易しで、目先のプロットを文章にするのが精一杯の我が身には、とても手が届く領域ではありません。
まだまだ過去の先行作品に学んでいかなければ、などとしおらしく思っていた矢先に、津原氏の訃報を耳にしました。どこまでも個人の話ですが、タイミング的に感慨深いものがあります。ご冥福をお祈りします。