カクヨムにて、素人ながら物書きとして小説投稿を始めた2023年もあっという間。息つく暇もなく新年の幕開けを迎えようとしていますね。何と恐ろしき時の流れでしょうか……。
それにしても、僕にとって今年は孤独で退屈な大晦日。しかし、何をするでもなく、ただ受動的に時の流れへ身を委ねているだけでは老いて枯れてしまう。新しい挑戦に始まった2023年を締めくくるには、やはり新たな挑戦が必要なのでは。
――そう考えた12月31日深夜、僕は考えました。「そうだ、バンジージャンプしよう。」
深夜にもかかわらず夜更かしに興じていた友人を一名引き連れ、3時間の仮眠ののち雨に濡れた路面とおよそ200㎞の旅路を経てやってきましたのは、茨城県常陸太田市天下野町、竜神大吊橋――世界広しと雖も決して多くない100m級ブリッジバンジーの名所として知られる、全長375mを誇る大吊橋です!
シーズン常設開催サイトとしては日本で第2位となる規模を、バンジー未経験者が挑戦する。それだけでも烏滸がましい限りですが、生憎僕は生まれながらの高所恐怖症。遊園地のジェットコースターも決して好きではありません。しかし、深夜テンションの僕は何を思ったか「だからこそ良いのではないか」と自らを奮い立たせ、眠い目を擦りながらフロントガラスを行き来するワイパーに手を振られ、高速道路を走りました。
窓は締め切り、爆音で音楽を流しながら助手席に座っていた友人が調べたところ、100m(メートル)バンジーによる自由落下での最高到達速度は、最近、古巣と本拠地を同じくするLAドジャースに移籍が決定した我らが大谷翔平選手の火の玉ストレート100m(マイル)に近しいものだと……。それを耳にした僕は、緊張から強く踏み込み過ぎていたアクセルからそっと力を抜きました(笑)。
特段道に迷うこともなく目的地に到着したのは8時半のこと。帰省ラッシュや悪天候による影響も考慮に加えたとはいえ、予約していた12時半よりも遥かに早く到着してしまったものの、周辺には時間を潰せるような目ぼしい場所もなく、あるのは橋の上から一望できる竜神ダムや竜神湖の絶景のみ。この頃すでに雨は疎らで、正式な許可を得た者しか渡ることができない警備員の方に護られた竜神大吊橋の下には雲が。早速「後悔」の二文字が脳裏を過りました……。
それでも、ここまで来たからには我々の辞書に「後退」はなし、あるのは前進勝利のみ。それにご存じでしたでしょうか。バンジーって実は結構な金額がかかるものなのです。それもそのはず、人命の安全保障が懸かっているのですから。スタッフの方々もさぞや責任重大なことでしょう。僕の場合は一人当たり、およそ2万円を徴収されました。
念のため、朝一でコールセンターに予約確認の電話を入れると、懇切丁寧に対応してくださった女性スタッフの方が我々の事情を察して予約時間を9時半に繰り上げてくださるという「神対応」を。あり得ないとは思いますが、柔軟な対応をしてくださったスタッフの方がこの文章を読んでいましたらお礼申し上げます(笑)。
急遽、ジャンプまで一時間前となった我々に残されているのは、断頭台に向かうまでの心の準備をするための時間だけ。あっという間にその時が訪れました。テントウムシのように生易しいものではない、赤と黒で彩られたおどろおどろしい警告色で書かれた電子誓約書にサインをし、中東系の男性外国人スタッフの方に促されるまま体重測定と安全装置の装着を済ませ、軽いイントロダクション。それが終われば、ガラスフロア付きの橋を渡り歩いて、水面までの高さを感じながらジャンプポイントまで移動。この間、おそらく10分と経っていません。
ポイントまで案内してくださった黄金の鼻ピアスが印象的な日本人の女性スタッフへ「中々飛べない人って、どのくらい飛べないものですか」と質問。「まあ、一番長かったのは25~30分くらいですかね。それより長いとこっちもウンザリって感じで、予約がつかえてる場合もありますし――」と返答。
「じゃあ、もしそれより長い間踏ん切りがつかなかったら……」僕は不安を吐露します。「ああ、大丈夫ですよ。お客さんたち朝一だから、予約もないからいくらでも待ちます」あっけらかんとした答えが。
「結局飛べなかったって場合も、やっぱりあるんでしょうか……」中にはそういう人が居たっておかしくない。僕は興味本位で聞いてみました。すると――。
「それは知らない方が良いと思いますよ(笑)」
ひええ、何それ。今一番聞きたくない意味深長な答えが返ってきました。そんなやり取りをしているうちに、いつの間にか宙へと突き出された僕の半身の前方には、雄大な山々の断崖絶壁と、雲の狭間から僅かに覗く澄み切った湖面が。バックグラウンドでは、何故かThe Chainsmokersと5 Seconds of Summerの共作『Who Do You Love』が大音量。その音の合間に別の男性スタッフによる唐突な5カウントが。5, 4, 3, 2, 1...
ここで踏みとどまったら二度と行けない――僕の本能的な直感が告げました。そして何より、唐突な予約時間の変更にもかかわらず愛想良く対応してくださった面々に申し訳が立たない。色々な考えが頭を渦巻く中、気づけば僕の身体は宙に投げ出されていました。
「お兄さん、意外とあっさりだったね」と鼻ピアスの女性が肩を竦めて笑いました。「はぁ、自分でもびっくりしてます……」程なくして橋まで引き上げられた僕は、そう返すのが精一杯でした。大谷さんの剛腕から投げ出された野球ボールはかくなる気持ちかと、改めて彼の偉大さを痛感しました(?)。
その後は茨城県内の神社巡りや温泉を堪能し、地元神奈川へと帰還。自分への御褒美、それと7日より熊本で働いている友人を訪問する予定があるのでその準備を兼ね、アウトレットで年末最後のセール品を爆買い。悔いのない年末大晦日を過ごすことができました!
ん、僕の友人はどうだったか、ですか。彼は僕よりも遥かに早く、あっさりと飛んでみせましたよ。なんかちょっと悔しかったです。
一年の厄は見事に落とせたような気がしますが、本稿のオチはございません(笑)。ただの自分語りを年末の御挨拶に代えて報告させていただきました。
また、そんなこんなありまして、公約では現在休載中の『雇われ探偵マツリカ』については年内の再開と申し上げておりましたが、延期の見込みとなっております。申し訳ございません。本稿は取り敢えずのお詫びをも兼ねたエッセイとお受け止めください……。
また、前回の近況ノートに間違えて「サポーター限定公開」のチェックボックスを押してしまいまして、全ての方が閲覧できないようになっておりました。特段内容のない薄っぺらい報告ですが、一応念のため。
それでは皆様、良いお年をお迎えくださいませ。