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隠れ名作を見つけた特別編(短編5作)&レビュ返

 二日ほど前、Twitterでとある短編が「面白い」という評判つきで回ってきました。

 読んでみたら素直に面白かったので自分もTwitterで紹介してみたところ、そこから連鎖が起きて★が半日で18個増えました(まあ僕も紹介されて読んだので連鎖の一部なのですが)。今までも「隠れ名作を見つけた」で紹介した作品の★が増えることはありましたが、こんな勢いで増加したのは初めてです。そこで「短編の紹介」にちょっとした可能性を感じました。僕は基本長編贔屓なのですが、一回ぐらいやってみてもいいかなと。

 そこで今回は、僕が過去にレビューをした短編から★の低いものを選んで「隠れ名作を見つけた」の短編版をやってみようと思います。紹介があまり多くなると読む気を無くしそうなので、とりあえず五作ほど。第二話とか後編とかないやつばかりなので開いた後はスクロールorスワイプで全部読み切れます。気軽に手を出してみて下さい。では、どうぞ。

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 「円満倒産」 著者:台上ありん (9,561文字)
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881883455

 僕がカクヨムで初めてレビューした作品です。確か見つけたのは新着レビュー欄から。初めてレビューしたということは初めて感銘を受けた作品なので、かなり印象に残っています。

 ストーリーは特になくて、会社が倒産する最後の日の風景が淡々と描写されているだけです。従業員みんなでお寿司食べたり、社長の最後の講話聞いたり。ただ……最後の最後で大どんでん返しがあります。

 このどんでん返しがすごくて、伏線とか全くないんですよ。感覚としては「どんでん返し」より「夢オチ」の方が近い。でも不思議と納得できるんですね。ネタバレ出来ないので抽象的な表現になりますが「は?」じゃなくて「ああ……」となる感じ。

 読み手をそういう反応に導くのはリアリティのある日常描写。人間や風景に血が通っているので、脳内で作中世界と現実世界と重ね合わせて勝手に伏線を補完してしまうわけです。読み終わって作品に好意を抱いたなら、もう一回頭から読んでみて欲しい。書かれてないことを想像して一回目とは全く違う印象を抱くのではないでしょうか。

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 「メロンだったら良かったのかもしれない」 著者:水池亘 (14,540文字)
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880593882

 彼女がスイカになる話です。

 ひどい説明だけど端的に表すとどうしてもそうなるのだから仕方がない。「スイカの精として~」とかじゃないですよ。ガチスイカ。女の子の姿をしたざるそばをヒロインにした『ざるそば(かわいい)』というライトノベルがありますが、こっちはスイカの姿をしたスイカをヒロインにした『スイカ(スイカ)』です。逃げ道を用意しないストロングスタイル。

 それでまあ、こういう説明を聞けばシュールギャグだと思うじゃないですか。違います。真面目な恋愛ものです。いや、彼女がスイカになっている時点で「真面目」はだいぶ嘘ですけど、物語のギャグ的処理はありません。基本シリアス進行で進んでいきます。

 そういう不思議な作品を成立させているのはスイカになった彼女の魅力。なんかかわいいんですよね。スイカなのに。画を出してしまったら即崩壊する「スイカの人間性」が描写できている。これは漫画でも映画でも真似できない、小説の醍醐味だと思います。

 自分で言ってて「スイカなのに?」と思いますが、瑞々しくて切ない恋愛ものが好きな人におススメです。逆にシュールギャグを求めるとおそらく肩透かしを食らうのでご注意を。

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 「Imo☆Kenpi」 著者:やたこうじ (2,368文字)
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881976505

 というわけでシュールギャグ成分を補充したい方は上のスイカ彼女ではなくこちらを読みましょう。以上です。



 説明足りてないのは分かってますよ。でも説明出来ないんです。「高知県の街コン作品」とかは言えますけど、はっきり言ってそんなのどうでもいいですからね。街コン作品なのにジャンルが異世界ファンタジーなところから察して下さい。雅島貢氏のレビュータイトルが一番分かりやすいですね。「今日の何言ってんのかわからないけど笑っちゃう大賞」。こんな感じです。

 とにかくなんかすごいいもけんぴの話。たった2,368文字なので気が向いたらさくっと読んでみて下さい。僕もたまに読み返して笑ってます。

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 「僕の好きな人」 著者:鈴川 (16,810文字)
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054882185089

 ネットを通じて老若男女ありとあらゆる人が気軽に創作を楽しめるようになった現代、「創作に年齢は関係ない!」という意見をここそこで見かけますが、実は僕は「関係ある」と思っている派だったりします。正確には「その年でないと書けないものがある」と思っている派。この作品はまさにその「その年でないと書けない」純文系青春小説です。

 片思いこじらせた男子高校生の話なんですが、作者が現役高校生なんですね。まあネット上のプロフィールなんて言ったもの勝ちなんで嘘かもしれないですけど、少なくとも作品を読んだ印象では本物ではないかと。とにかく生々しい。僕が作者プロフィールを知ってから作品を読んだならともかく、作品の生々しさに圧倒されてから作者プロフィールに飛んで納得したクチなので、色眼鏡は入っていないと思います。

 なんか大人が青春小説で書く高校生ぐらいの男の子って、セックスする時に彼女のブラジャー簡単に外せそうな子が多いじゃないですか。なんなら片手でパッチーンと外しそうじゃないですか。でもこの作品の主人公は仮にそこまで漕ぎつけたとしてもブラジャー外せなさそうなんですよ。前から背中に手を回してもたもたしてるうちに彼女が自分で外してくれる、みたいな。でもやっぱり高校生ぐらいの男の子なんてブラジャー上手く外せない方が自然だと思うんですね。僕は何を言ってるんでしょうね。すいませんね、いきなり変な話して。とにかく独特の生々しさがあるということです。ブラジャー外せない系男子的な。(別に馬鹿にしているわけではありません)

 なおここまで生々しさばかり強調しましたが基礎的な筆力も相当高いです。そこはあまり年齢関係ない部分とはいえ高校生でここまでやれるのは立派(どっから目線だよ)。カクヨム甲子園の作品を読み進めている方に読んでみてもらいたいところです。

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 「嘘松アーニャと夢色異世界」 著者:ピクルズジンジャー (18,144文字)
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883760270

 冒頭で説明したTwitterで紹介したら★が半日で18個増えた作品です。カクヨムではレビューを書いただけなのでこちらでも推しておきます。病的に嘘つきな友だちの女の子が突然姿を消したと思ったらLINEで「スマホ持ったまま異世界転生した」と連絡を寄越し、そのままTwitterやらInstagramやらで異世界キラキラライフの実況を始め、それに主人公の女の子や世間の人々が翻弄されていくという物語です。

 この作品の面白いところは「嘘松」と「異世界転生」の親和性。「異世界転生」って作り物の中でも作り物感がすごいじゃないですか。「物語の中に入っていく物語」という物語の入れ子構造。リアリティとか求められていない完全なるエンターテイメント。それを生粋の「嘘松」が実況するわけで、普通に考えれば嘘ですよ。でも実況には画像がバッチリついてるし、状況的にも本当に異世界転生したとしか思えない。そして読み手も何が真実なのか分からなくなって、作中の騒動に飲み込まれていく。もし読み手が「これは嘘だな」あるいは「これは本当に転生したな」と明確に判断できる作品だったらこの読感はなかったでしょう。「異世界転生の実況」という大筋に「嘘松」という要素を組み合わせたことで化学反応が起きています。

 あと個人的に面白いのが読み終わった後の感想に「切ない」派と「怖い」派がいること。話のどこに重点を置くかで見方ががらりと変わるようです。ちなみに僕は断然「切ない」派。「見えるわけないじゃん😁」がかなり涙腺にくる。是非読んで、自分がどちら側に振れるのか確かめてみて下さい。

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 以上、短編五作品でした。今回の紹介は現代劇、不条理、シュールギャグ、青春純文学、サブカルとバリエーションに富んでいるので、読んだけど面白くなかったという事案がいつもの「隠れ名作を見つけた」より発生しやすいと思います。しかし例によって例の如く、そこは個人的な趣味趣向の領域なのでその手の苦情は受け付けません。ご了承下さいまし。それでは。


-----(「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」のレビュ返)-----

 @muuko 様

 後からレビューを頂いたようでありがとうございます。レビューになっていると思いますよ。感動がきちんと伝わってきました。そういう感動を与えることが出来たことはとても嬉しく、僕もカクヨムをはじめてよかったと思っています。


 黄間友香 様

 仰る通り、この話は落とそうと思えばどこまでも落とせます。Track5が谷底だと思いますが何ならそこで終わってもいいわけですし。ですがそれは悲しすぎるし、何より僕がイヤなので、作り物めいてしまったとしてもTrack6以降を書かない選択肢はありませんでした。同じような苦しみを抱えた全ての人間に幸あれと願います。


 謡義太郎 様

 「貴方と私は意見が違う」「だけど私は貴方が好き」。こういう考え方の出来る人間で世の中溢れかえっていれば、僕はそもそもこの作品を書こうと思わなかったんだろうなと最近思います。拙作を読み、同じように思ってくれる人がたくさん現れてくれることを祈ります。


-----(「お前はすでに死んでいる」のレビュ返)-----

 荒ヶ崎初爪 様

 自分で言うのもなんですが、いいキャラしてますよね、じいさん。なんだかんだ会合に参加してるのがいい。寂しがり屋。この作品は「人間味」と「キャラクター性」のバランスに留意していて、その中でもじいさんは特に上手く出来たと思っていたので、賛辞を頂き嬉しかったです。ありがとうございました。

2件のコメント

  • 浅原さん、こんばんは。
    お久し振りです。

    あのタイトルで、あの設定で、こんなに苦しくなるとは予想もつきませんでした。
    良い作品をご紹介いただきました。
    ありがとうございました。
    あ。スイカになるお話です。
    「すいか」に釣られたのです。単純なので(^_^; )
  • 早瀬 さん

    お久しぶりです。気に入って頂けたのであれば紹介した甲斐がありました。スイカいいですよね。スイカ要素と青春恋愛要素にはとんでもないギャップがあるはずなのに不思議と噛み合っていて、読んでいて「スイカである必要ある?」と思わない。筆力だなと思います

    お読みいただき、またコメントいただきありがとうございました
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