特集
真夏のピークは去ったはずなのにまだまだ残暑が続く今日このごろ。「だったらこの時期でもホラー特集はありなんじゃない?」ということで、今回はホラー特集です。しかしただのホラーではございません。今回は『越境する恐怖……』というテーマで、ホラー以外のジャンルにホラー要素を絡めている作品を集めました。異世界に侵蝕するJホラー風の呪い、Vtuberたちを襲う心霊トラブルを解決する霊能力者、デスゲームと都市伝説を組み合わせた全く新しい形のホラー、田舎でスローライフを送る青年と怪しげな村の人々……などなど少し変わり種な恐怖を描いた作品たちをどうぞ。
見ると一週間以内に死ぬ呪いのビデオ、入居者が次々と怪死を遂げる呪いの家……そんな、どこかで聞いたような呪いの現象がファンタジー風な異世界に輸入されてしまう本作品。「異世界にビデオテープ持っていっても再生できないじゃん」というツッコミに対しても、ちゃんとビデオが巻物となり、現地の人でも読める親切設計で対応してくれます。
要するにJホラーのパロディなんですが、本作の偉いところはパロディでありながらギャグっぽくならず、しっかりと怖いところ。
上辺のイメージを借りただけという内容になっておらず、原作の要素を作中に上手く散りばめているのもお見事で、元ネタの呪いの恐ろしさに加えて、呪いがきっかけで起きる人間ドラマの中にもしっかり恐怖を演出してくれます。特に第2話の「黒い巻物2」はシスターの語りも上手ければ、短い中に張られたさりげない伏線も巧みで、元ネタがわからなくても恐ろしい完成度の高い短編になっています。
今のところまだ4話しかないのですが、このユニークなホラーの世界をもっと観てみたいので、今後の更新にぜひとも期待したい一作です。
(「越境する恐怖……」4選/文=柿崎憲)
勤めていた会社が潰れたのをきっかけに、ゲーム配信者として生きることにした灰川メビウス。しかし所詮は素人で配信に全く人が来る気配がない……。そんなお先真っ暗な灰川だが、実は彼は優れた霊能力の持ち主で、人気Vtuberの霊能トラブルを偶然解決したことで、本人の望まぬ形で業界の注目を浴びることに……。
一見華やかに見える配信の世界でも、その裏では恨みや嫉妬といった負の感情がつきもので、それが原因で起きる心霊や呪いのトラブルを鮮やかに解決していく灰川の姿がカッコいい。身近なものでサラッと呪いを解くこともあれば、事前に準備を整えてから本格的に除霊に挑むときもあったりと、解決方法が毎回バラエティに富んでいるのも大きな魅力の一つ。
そんな霊能関係では頼れる灰川なのだが、配信の腕は一向に上がる気配はない。しかし彼が配信者としてダメダメだからこそ、彼が助けることになるVtuberたちの配信の上手さが引き立つのです。時にはつらい思いをしながらも、それでも自分の強みを見つけてVtuberとして成長する少女たちの姿は非常に魅力的。凄腕の霊能者が活躍するホラーとしての面白さだけではなく、配信を仕事にする人たちの頑張りを描くお仕事ものの楽しさも味わえる作品です。
(「越境する恐怖……」4選/文=柿崎憲)
都市伝説や怪談は、本来、実体を持たない曖昧なもの。しかしこの作品では、そこに厳密なルールを加えて話の内容を具体化することで、『都市伝説』が実際に人を害するだけの強制力を持つという特殊な設定が導入されている。
そうなるとどうなるのか? 起こってしまうのだ、「きさらぎ駅」に集められた人たちによるデスゲームが……!
「きさらぎ駅」や「こっくりさん」、「The Backrooms」という古今東西の有名な都市伝説に新ルールが追加され、殺意マシマシなデスゲームを強制してくるという時点で面白いのだが、重要なのはこれが「ゲーム」であり「ルール」があるということ。つまり探せば「攻略法」が存在するのだ……!
そう、本作で描かれるのはデスゲームと化した都市伝説と人間の知恵比べ。ゲームのルールはちゃんと最初に提示されるし、文中のわずかな手がかりを見逃さなければ登場人物だけでなく、読者にもゲームの答えが見つけられる内容に仕上がっている。
ホラー好きにはもちろん、ロジカルに謎を解いていくのが好きなミステリーファンにもぜひ読んでもらいたい。
(「越境する恐怖……」4選/文=柿崎憲)
都会での生活に疲れて、過疎化が進む鹿ケ峰村に引っ越してきた宍戸駿。最初のうちは住人たちに警戒されていた宍戸だが、エンジニアの経験を活かして、村の人々のPCトラブルを解決していくうちに、徐々に村の一員として馴染んでいく。しかし、ある日彼の家に『出テイケ』とだけ書かれた手紙が投函され……。
物語序盤では宍戸が村になじんでいく様子がゆっくりと描かれ、なかなか話は動き出さない。しかし、一見落ち着いた村での生活の中にも、「住人の間ですぐに広まる噂話」「祭りの夜に行われる怪しい儀式の存在」「何度も投函される不気味なメッセージ」と村内の不穏な要素は少しずつ積み重なっていく……。そして、ついに訪れた祭りの日、これまで高まっていた緊迫感が一気に爆発するのだが、その展開が「えっ、そういう話になるの!?」と意表をついたものになっているのだ。
作中で描かれる恐怖の内容も決して他人事とは言えない内容で、巧妙に張られた伏線の中に意外な真実が潜む現代的なホラー小説だ。
(「越境する恐怖……」4選/文=柿崎憲)