ニコニコ動画が停止してしまって観ていた動画の続きが観れない……。そんなショックを受けているときこそ、カクヨムです。無数に存在するカクヨムの小説を読んで心の隙間を埋めていきましょう。というわけで今週は新作「金のたまご」特集! 怪物のヒロインしか出てこないラブコメや、ヒロインが強引に既成事実を作ろうとしてくるラブコメ、人を食った性格のうさぎの視点から紡がれる日常系ファンタジーに、気さくな性格の幽霊ばかりが出てくるシュールなホラーなど粒ぞろいの作品をチョイスしました。ぜひぜひお楽しみください!

ピックアップ

このラブコメ……何か変……

  • ★★★ Excellent!!!

 タイトルからして不穏な本作品。でも待ってください、化け物といっても色々あります。猫耳が生えているとか種族がサキュバスであるとか、ヒロインが化け物であることが大きな魅力となるラブコメもたくさんあるじゃないですか。

 というわけで、本作はメインヒロインが赤黒い巨大な肉塊で、その妹は全身のあちこちが腐り落ちたゾンビです。……これでラブコメをやるのはいくらなんでも無理だよ……ラブコメどころか通常の学校生活だってきついよ……。

 しかし、関わり合いになるを避けようとしても彼女たちはラブコメのヒロインらしく主人公の化野曜に積極的にアプローチをしかけてくる……! しかも彼女たちは化野以外には美少女に見えているせいで邪険に扱うわけにもいかない。

 この時点で完全に詰んでいるのですが、さらに困ったことに地の文を無視してセリフだけ読むとどのヒロインも実に可愛らしい! のんびり屋で少し天然の入った肉塊と姉想いでツンデレなゾンビ! それ以外にも外見以外は愛らしいヒロインが盛りだくさん! こんな個性的なヒロインたちと校外活動を共に過ごしたり、デートに行ったり、時には痴話喧嘩に巻き込まれたりと、化け物たちとともにラブコメの定番イベントをこなしていく狂気の作品。

 漫画やゲームの形でこの設定をやるとビジュアルのインパクトに全てを持っていかれそうなので、ある意味小説という媒体でしか成立できない異形のラブコメと言えるでしょう。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

絶対に付き合いたくない彼と既成事実を作りたい彼女の恋愛心理戦

  • ★★★ Excellent!!!

 交通事故で頭を打って入院することになった田中智。そんな彼のもとにお見舞いにやってきたのが幼馴染の佐藤雪。お見舞いに来たのに開口一番煽ってくる幼馴染にイラっとした智は記憶喪失のフリをするというドッキリを敢行! すると智の嘘を真に受けた雪は「私はアンタの彼女よ!」ととんでもない大嘘を言い出すではないか!

 あまりにもバレバレな嘘を吐いて既成事実を固めようとする雪と、嘘だとわかってるけど指摘すると記憶喪失が嘘だとバレるため受け入れるしかない智のやりとりが読んでいてとにかく面白い。

 見た目は美少女な幼馴染が熱烈にアプローチしてくるのに受け入れようとしない智の態度はもったいないような気もするが、冷静に考えれば記憶喪失の人間に恋人同士だったって嘘を吐く人ってかなりヤバいからね……。

 さらに雪の友人である田辺優香もお見舞いにやってくるのだが、この田辺も雪とは違ったタイプのヤバい女性だったせいで、三人の関係は非常にこんがらがったものに。

 そしてそれぞれの嘘と恋心が錯綜した結果、最終的に待ち受けるオチがある意味この作品らしいとも言えるひどい内容で大変笑える。ラブ少なめ、コメディマシマシな内容だが、笑えるラブコメが読みたいという人にはぜひおすすめしたい一作だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

いろんな意味で人を食ったうさぎ

  • ★★★ Excellent!!!

 本作品では公園で暮らす野良うさぎと公園を訪れる人々の交流が描かれるのだが、物語の語り手となるのは人間ではなく野良うさぎの側だ。そしてこのうさぎがやたら良い性格をしている。

 何せ突如現れて願いを一つ叶えてくれるという神様に対して、願った内容が「人間を、食ってみたい。」なんだもの。別の願いにしろという神様の意見にも折れなかったうさぎは、無事ライオンになって人間を食べることができる能力をゲット。

 とはいえ、ライオンになれるのは一度きりなので、普段は公園で人間に媚を売って餌をもらう日々。人間たちは物言わぬうさぎに他人には言えない不安や愚痴をこぼし、うさぎはそれとなく話を聞いて適切なリアクションを返すというペットセラピーのような光景が展開されるほのぼのとした内容になっている。しかし、このうさぎは毎回ラストの【本日の人間】という寸評欄で「彼女はニンジンをくれるので、食べる候補にはいれない。」とか「やせた人間は食べられる部分が少ない。」などと言いたい放題。まさに人を食った性格だ。

 こうしたうさぎの視点から語られる日常を読んでいるだけで十分に楽しいのだけど、やはり気になるのはライオンに変身できるうさぎの能力。はたしてうさぎは本当に人間を食べてしまうのか? それは実際に話を読んでお確かめください。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

幽霊たちはかく語りき

  • ★★★ Excellent!!!

 旧道のトンネル、吹雪の避難小屋、心霊物件などなど、いかにもそれらしい舞台で起きる心霊現象を描く短編集なのだが、話の内容はどれも大変シュール。第一話の入りからしてこんな感じである。

「どうも、こんにちは。ヤベっていいます。どうもどうも。G県の山奥のF峠っていう場所に、新しい道が開通したせいですっかり使われなくなった古いトンネルがあるんですが、そこで幽霊をやってます。」
「幽霊をやってます」じゃあないんだよ。そういうフランクな口調で心霊体験を語っていいのは人間だけなんだよ。

 このように登場する幽霊がみんないい人なのが特徴なのだが、本人たちに悪気はなくても心霊現象はしっかり起こすから余計にたちが悪い。幽霊たちばかりではなく、時には人間側の視点からも物語は紡がれ、読後感も話によってさまざま。純粋に笑えるものから、ほのぼのしてしまうようなもの、どこか不気味さを残すものなど、実にバリエーション豊かで、中でも3話目の「夢の中で私を殺す男」はこの設定でしか成立できない奇妙な読後感が味わえる。

 ジャンル的にはホラーに分類されるのだが、幽霊たちがみんないい人というだけあってあまり怖くないので、ホラーが苦手な人は普段読まない作品をちょっと覗いていく気持ちで、そしてホラー好きは王道の展開にひねりを加えたパロディとして読んでいくと楽しめるのではないでしょうか。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)