いろんな意味で人を食ったうさぎ

 本作品では公園で暮らす野良うさぎと公園を訪れる人々の交流が描かれるのだが、物語の語り手となるのは人間ではなく野良うさぎの側だ。そしてこのうさぎがやたら良い性格をしている。

 何せ突如現れて願いを一つ叶えてくれるという神様に対して、願った内容が「人間を、食ってみたい。」なんだもの。別の願いにしろという神様の意見にも折れなかったうさぎは、無事ライオンになって人間を食べることができる能力をゲット。

 とはいえ、ライオンになれるのは一度きりなので、普段は公園で人間に媚を売って餌をもらう日々。人間たちは物言わぬうさぎに他人には言えない不安や愚痴をこぼし、うさぎはそれとなく話を聞いて適切なリアクションを返すというペットセラピーのような光景が展開されるほのぼのとした内容になっている。しかし、このうさぎは毎回ラストの【本日の人間】という寸評欄で「彼女はニンジンをくれるので、食べる候補にはいれない。」とか「やせた人間は食べられる部分が少ない。」などと言いたい放題。まさに人を食った性格だ。

 こうしたうさぎの視点から語られる日常を読んでいるだけで十分に楽しいのだけど、やはり気になるのはライオンに変身できるうさぎの能力。はたしてうさぎは本当に人間を食べてしまうのか? それは実際に話を読んでお確かめください。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)