ゼロ年代のライトノベルが好きだったあなたに。

 高校生活の三年間、世界を書き換える能力を持つ少女、未神蒼と共に思春期同好会の一員として数々の冒険を繰り広げた依途空良。いかにもなラノベっぽい高校生活だったが、彼らの青春には一つだけ足りないものがあった……ラブコメである。そしてついに迎えた卒業の日。卒業式上での未神は依途に対して露骨な告白待ちアピールを見せるが、依途はそれを堂々とスルー! これに未神がキレたことで世界は高校4年制へと書き換えられ、二人はもう一年学生生活を送ることに……。

 新たに生まれたロスタイムの4年目は未神が積極的にアピールを行ってくるし、二人しかいなかった部活には新たに長身ギャルの新入部員がやってくるなど、どんどんラブコメ的なイベントを見せてくれるのだが、中盤で物語は意外な展開を見せ始めるのが大きなポイント。

 鈍感な主人公、妙に理屈っぽい語り口調、万能な力を持ったヒロイン、馬鹿馬鹿しい名前の付いた妙な部活……作中でも示唆されているようにゼロ年代のライトノベルで流行っていた要素を多数取り入れているのだが、ただの回顧主義に終わらず、そこに現代的な視点を加えて、きちんと令和最新のラブコメディとして物語を成立させている点を高く評価したい。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)