ある日埼玉を中心に、突然英語が話せなくなるという症状が発生する。病院が調査したものの患者の脳内に特別な変化はなし。刑事である庄司孝介はこの謎の現象の原因について調査するよう命じられ、「ピィ事案対策部」という怪しげな部署に異動させられる。
本作ではこうして突然起きる不条理な現象の正体に対して一切触れない。問題とするのはどのような状況で事案が発生するかであり、その時の共通点だけを調べひたすら原因を遡っていく。
奇妙な事案を扱っているようで、調査の方針自体はわりと古典的だ。しかし、奇矯な言動を繰り返す謎多き上司、捜査に不慣れだがやたらと腕の立つ女性警察官。スパコンを使いこなすデータマイニングのプロなど癖の強い面々が集まり、捜査の過程は読んでいて読者を飽きさせない。また事案の危険性を鑑みた海外勢力が捜査に介入し、捜査員の中にも英語が話せなくなる者が発生するなど、捜査はどんどん混沌へと陥っていく。この奇妙な現象の原因をピィ事案対策部は突き止めることができるのか? その真相は是非自身の目で確かめてほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
非常におすすめの作品です!
この作品は『ピィ事案』と呼ばれる、あまりにも不可解で非常識で意味の分からない、それでいてほっといたらとんでもないことになる事象に立ち向かう刑事たちのお話です。
ピィ事案対策課が出来て初めての事案を扱った、言わば始まりの物語と言っていいでしょう。
当然、意味の分からないことを相手にするのですから、もう何も分かりません! 全てが手探り状態からのスタートです。
何をしようとも真相に手が届かなくて、霧は晴れなくて、しかしこちらは次第にすり減って、読んでいて絶望感に苛まれます。
しかしそれでも地道に原因を探ろうとする主人公たちの姿に胸を打たれます!
歴史を振り返れば、現実世界でも意味不明な不条理は噴出し、その度に原因究明へ尽力した人類の姿がありました。この作品はその姿を痛快なまでに描き出した傑作です!
……が、しかし。
この事案に対処している時、『ピィ事案対策課』のメンバーは6人。
彼らが相対する事象は、これまでの常識が通用しない、化け物級の不条理……。
果たしてこれまでの歴史と同じように、上手く原因を突き止められるのでしょうか!? 必見です!
展開やテンポも良く、キャラクターも個性豊かで、シリアスながらもユーモアも忘れない、非常におすすめの一作となっております!