王家に仕える身でありながら、とある罪を犯し投獄された老騎士のゴール。彼がたまたま牢獄にいたことにより、王家の絵画を狙う若き盗人、竜を追う魔女の師弟など本来何の関係もなかった人々の運命が交差していく群像劇。
まず本作を語る上で一番重要な点として文章が非常に上手い! 冒頭の牢獄の場面から、必要最小限の文章で獄中の空気が鮮やかに描写されている。騎士ゴールと盗人のリヒナーの初対面の会話でも、短い中に互いの性格がはっきりと表れ、それぞれの状況が整理されながらも、「ゴールは一体何をしてしまったのか?」「リヒナーはなぜ王家の絵を盗もうとするのか?」という部分には触れず、読者の興味を上手く惹いている。
自身が追われる身にありながらも困っている人々を見捨てられないゴールの行動が、登場人物たちに影響を与えていく物語も面白い。ゴールと関わる面々はタイトルからも察せられるように、それぞれが痛切な過去を抱えており、中には眉をひそめたくなるようなものもあるが、それだけに読み手の胸を揺さぶる人間ドラマに仕上がっている。
またファンタジーならではの、剣と魔法による竜との戦いもあるが、こちらのアクション描写もやはり上手い。複数の人間が集まる大規模な戦闘ながらも誰が何をしているのかわかりやすく、それでいて臨場感たっぷりに描写されている。
端正な文章で魅力的な登場人物のドラマと迫真の戦闘を描く骨太な本格ファンタジーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)