幽霊たちはかく語りき

 旧道のトンネル、吹雪の避難小屋、心霊物件などなど、いかにもそれらしい舞台で起きる心霊現象を描く短編集なのだが、話の内容はどれも大変シュール。第一話の入りからしてこんな感じである。

「どうも、こんにちは。ヤベっていいます。どうもどうも。G県の山奥のF峠っていう場所に、新しい道が開通したせいですっかり使われなくなった古いトンネルがあるんですが、そこで幽霊をやってます。」
「幽霊をやってます」じゃあないんだよ。そういうフランクな口調で心霊体験を語っていいのは人間だけなんだよ。

 このように登場する幽霊がみんないい人なのが特徴なのだが、本人たちに悪気はなくても心霊現象はしっかり起こすから余計にたちが悪い。幽霊たちばかりではなく、時には人間側の視点からも物語は紡がれ、読後感も話によってさまざま。純粋に笑えるものから、ほのぼのしてしまうようなもの、どこか不気味さを残すものなど、実にバリエーション豊かで、中でも3話目の「夢の中で私を殺す男」はこの設定でしか成立できない奇妙な読後感が味わえる。

 ジャンル的にはホラーに分類されるのだが、幽霊たちがみんないい人というだけあってあまり怖くないので、ホラーが苦手な人は普段読まない作品をちょっと覗いていく気持ちで、そしてホラー好きは王道の展開にひねりを加えたパロディとして読んでいくと楽しめるのではないでしょうか。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)