出てくる幽霊がみんないいやつな怪談
やまだのぼる
第1話 旧道のトンネル
どうも、こんにちは。
ヤベっていいます。
どうもどうも。
G県の山奥のF峠っていう場所に、新しい道が開通したせいですっかり使われなくなった古いトンネルがあるんですが、そこで幽霊をやってます。
何でそんなところにいるかっていうと、まああれです。このトンネルの工事で死んだからです。
トンネルを作ったのがずいぶん昔の話なもんですから、その当時は安全面なんかもすごく杜撰で、上の人たちはみんなとにかく工期が遅れないようにってそっちばっかり気にしてて、それで無茶な工事もやって、けっこう人が死んだんですよ。
俺もそうだし、ほかにも幽霊仲間が十人くらいいるんです。
トンネルの裏に慰霊碑も立ってますよ。
そうですね、まあ別にこの世に未練があるとかっていうわけでもないんですけど、なんかこの世に残っちゃってますね。
多分、この辺の磁場が強いんじゃないかなあ。霊魂を逃がさない、みたいな。よく分かりませんけど。
で、まあ俺たちももう死んじゃったんで、幽霊には学校も試験も何にもないわけですよ。
みんなで毎晩酒盛りとかして、いつか成仏できたらいいねー、なんて話しながらのんびり暮らしてたんですけどね。
今の閑散とした状態からは想像もつかないでしょうけど、N峠の方に新しいバイパスができるまでは、海沿いまで出ずに隣の県に行くにはこのトンネルを通るしかなかったわけですから。結構交通量はあったんですよ、こんな山の中でもね。
で、ここを通る人の中には霊感の強い人もいたらしくって。あのトンネルは出る、なんてうわさがだんだん広まって、いつの間にか心霊スポットみたいになっちゃって。
わざわざ肝試しに来る若者とか、けっこういたんですよ。
あとテレビ局も来たことありましたね。
有名な霊能者のおばさんがテレビクルーを引き連れてやって来て、トンネルを見上げてぼろぼろと涙を流しながら、「このトンネルの工事で亡くなられた方々の霊です。俺たちのことを忘れないでくれって言ってます」って言ってくれてね。嬉しかったなあ。
まあ俺たちその時トンネルの上じゃなくて、みんなそのおばさんの後ろにいたんですけどね。
でもなんとなく俺たちも気分が盛り上がっちゃって、みんなでおばさんと一緒に、誰もいないトンネル見上げてぼろぼろ泣いたなあ。「ありがとおお!」とかトンネルに叫んでね。意味わかりませんけども。
フカワなんか泣きすぎたせいで間違ってそのまま成仏しちゃったもんなあ。あ、間違ってはないのか。その方がいいのか。
まあそんなわけで、この道が旧道って呼ばれるようになってからはほとんど車も通らなくなりまして。静かなもんだったんですけど。
ある日の夜、とっぽい車が一台来たんですよ。シャコタンの、中古のスポーツタイプ。いかにもなあんちゃんがいかにもなねえちゃんを助手席に乗っけて。
で、トンネルの途中で車を止めて、クラクションを三回鳴らすわけですよ。
なんか、そうすると出るんですって。誰が言い出したのか知らないけど。
まあ俺たちもせっかく呼ばれたから、なんとなく行ってあげるんですけどね。だいたいそういう連中は写真撮るから、サービスでそこにちょっと写ってあげたりしてね。
で、その時は助手席の窓を開けたおねえちゃんがちっちゃいトランシーバーみたいなやつ、あ、スマホでしたっけ。それを外に向けてパシャパシャと撮影始めたわけですよ。
おねえちゃん、「やばい、まじで何かいそう」とか半笑いで言ってましたけどね。はーい。いますよー。
で、あんちゃんのほうが「つまんねえな、全然大したことねえ。もう行くぞ」とか言って。
車の窓閉めるときに、そのおねえちゃんの耳からピアスが外れて、ころんと地面に落ちたんです。
だけどそれに気付かずに、車はUターンして帰ろうとしてるわけですよ。
いや、ピアスの片割れがかわいそうじゃないですか。
俺たちにだって会いたい人ってのがいて、それでも結局幽霊だしもう会えないわけじゃないですか。
このピアスもこんなところに転がされて、もう二度と片割れには会えないんだな、なんて思ったら、みんな切なくなっちゃって。
一番先輩のヤマダさんが「追いかけて返してやろう」って言い出して。俺たちも「そっすね!」「やりましょう!」って賛成して、みんなでダッシュで追いかけたんですよ。
まだすぐそこをちんたら走ってたんで、一気に追いついてみんなで車の窓をばんばん叩いたんですけど、全然止まってくれないの。
何か車の中で二人ともえらくテンパった顔してて。
「多分俺たちが幽霊だから見えてないんですよ。手形に色付けましょう!」ってニッタくんが提案してくれて、そうだな、さすが知恵者のニッタ君だ、それがいいってんで、みんなで赤い色付けた手で車の後ろと横の窓ガラスをばんばん叩いたんです。
もうみんなで、ばんばんばんばん。
車の窓、俺たちの手形だらけですよ。絶対気づかないわけないでしょ。乗ってるのがどんなお年寄りだって気付くでしょ。なのに、二人とも若いくせに止まらないわけ。
車はどんどんスピード上げるし、かといって俺たちもあんまりトンネルから離れられないから。
もうだめかーってみんな諦めかけた時に、一番若いモリタくんが「諦めるのはまだ早いっす!」って叫んで、それはもうものすごいスピードで車の前に回り込んだんです。
で、ピアスを持った手で、フロントガラスをばああんって思いっきり叩いたんです。
ピアスはね、フロントガラスにめり込んでました。
真っ赤な手形のど真ん中に、ピアスがきらりと光って。きれいだったなあ。
車の中の二人は泣きながら何か言ってたけど、多分失くしたと思ったピアスが戻って来て感激してたんだと思います。
みんなでハイタッチしましたよ。あのときの一体感、半端なかったなあ。
モリタ君のあれは、ほんとにすごかったですよ。まさに全身全霊って感じでしたね。幽霊だけにね。
今でもたまにあのときのことを思い出して、みんなで「あのピアス元気かなあ」なんて話をしますね。
あ、はい。トンネルに来てくれれば別にクラクションとか鳴らさなくても写真に写り込むくらいのサービスはしてますよ。
いやー、ほんと。いつか成仏できたらいいっすねー。
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