プランク含めた筋トレを1年継続しておりますわたくし、最近は生活に新たなる健康をぶっ込んでみたりしています。実はそう、グラノーラを導入しているのですよー。
 いろいろ試しているのですが、荒ぶる過去の記憶からなのかなんなのか、ついつい糖質オフとかプロテイン入りのものを手に取ってしまいがちです。まあ、食べるだけでは結局のところただの栄養なのですけれどもね。選択肢の広さがあるというのは本当におもしろいものです。とりあえずは市販されている全商品試してみたいと思っていますので、次はイチゴだらけのにするか、チョコとバナナのにするか、悩ましい……
 はい。そういうこともあったりなかったりですが、今回の新作紹介は「幅広く」をテーマに選ばせていただきました。なんといっても春は出逢いのシーズンですからね。みなさまにも、ご自身の体ならぬ心の幅を拡げられるよき出逢いをしていただけましたら幸いですー。

ピックアップ

嫌いは好き。反転する彼女の言葉がもたらす最高で最悪の苦み

  • ★★★ Excellent!!!

 大学1年生男子の“俺”は、空から降ってきた匣瀬理名砂を受け止める。そして大学内で彼女の声を聞いた者なしと謳われる超絶無口な彼女に言われるのだ。「は、離さないで! この健全男子っ!」。名砂の言葉は内容が反転する。彼女はそれをひた隠して生きていた。それを知った彼は彼女を影から助けるようになり、やがて恋人になるのだが……

 ヒロインの名砂さんは嘘がつけなくて、ただしその言葉が真逆反転します。そんな人なのでお話もラブコメに転がるのかなと思いきや、違うんですよ。関係性が進んでいくにつれ、主人公は反転する彼女の愛の言葉に痛みを感じるようになっていくのです。

 関係性は本当にささやかなことをきっかけに生み出される反面、同じささやかさをきっかけに消失してしまうもの。コミカルな設定であるはずの“反転”が、物語までもを反転させてたまらない苦さを醸し出す。それこそが物語最大の魅力で、読みどころなのですよね。

 ビター&ビターな恋愛劇、反転せずに言わせていただくと極上です。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

古い「やくも」で出遭ったのは、いるはずのない人たち

  • ★★★ Excellent!!!

 結婚式を終えたその日の夜、大宮太郎とその妻たまきは同じ夢を見た。それは乗ったことのない古い列車へ乗って、さらには鉄道好きなふたり——そのときにはまだ小学生だったはずの米河清治と、その大先輩にあたる石本秀一と乗り合わせ、食堂車で同じ時を過ごすというものだった。

 舞台となる「やくも」は今も出雲市駅から岡山駅を走る列車です。ただ、4人が会する食堂車はすでになく、そして鉄道好きのふたりは出会う機会がないはずの年齢差で。実に不思議ですし、違和感がありますよね。どうしてこんな夢を4人が見たのか?

 でも、彼らそれぞれの視点から同じ夢が語られていくことで、不思議は全きひとつへ集約していくのです。さらには、ここまで折り重ねられてきた違和感がこの上ない納得感に変わる。この作品の魅力はまさに、小さいけれど分厚いどんでん返しにこそあるのです。

 ぜひご一読ください。そして第11話の「インディアンの伝言」でそうだったのかと膝を打っていただけましたら。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

棄てていないはずなのに棄てた童貞を取り戻せ!?

  • ★★★ Excellent!!!

 ナチュラルボーン・童貞である大学3年生の“僕”はあるとき、同じ童貞であり、刎頸の友である永野から切り出された。「いっしょに童貞を取り戻してほしい!」。友がすでに童貞ならぬ身の上であることに衝撃を受けつつ話を聞いてみれば、永野は自身が出遭った不思議な男から持ちかけられたのだという。性交せずに童貞を棄ててみないかと。

 あらすじからわかる通り、シュールなネタなのですよ。でも、そこへ学生にノートのコピーを売る通称「ノート屋」さんが事業拡大し、“童貞廃品回収”なる商売を始めたというもうひとつのシュールをぶっ込むことで、お話は一気に加速するわけです。

 その起爆剤こそ、外連な弁舌閃かせる怪人“ノート屋さん”なのですが、扇動者としてとにかくいい仕事をしていて、そのキャラクター性に目を惹きつけられるのです。

 ネタとキャラがそれぞれを引き立て、お話を追い立てていく。まさに理想的な関係を魅せてくれる、池袋のドメスティックな話題もありありなシュールコメディ、おすすめです。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

大阪の古書店で出逢う珠玉の一冊

  • ★★★ Excellent!!!

 大阪の古書店を巡るひとりの男がいる。彼が探すものは名書だが、文学作品ではない。ライトノベルやジュブナイルといった、少年少女をターゲットとしたエンタメ作品群だ!

 というわけで、著者さんの古書店巡りライフを描く本作、最大の特徴はその語り口です。独白的な文章は平らかに、しかし叙情的に本の内容を語り、古書店の有り様を語り、自身の感慨を語る。著者さんが掲げられている某おひとり様グルメコミックの風情が文章として昇華されていればこそ——本当に独り言を聴いているかのような、それでいて「特定の空間の持つ情感のにおい」がしみじみ感じられるのがおもしろいのですよねぇ。

 それに、作中で著者さんが発見された本と作者さんにまつわるお話も実に興味深いのです。内容はもちろんですが、時代性からの考察や感想、これがまたうるさくないのに細やかで濃やかで。本というものがお好きな方なら、誰しもうなずかずにいられません。

 本好きによる本好きのための一作、ぜひともご一読くださいまし。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)