古い「やくも」で出遭ったのは、いるはずのない人たち

 結婚式を終えたその日の夜、大宮太郎とその妻たまきは同じ夢を見た。それは乗ったことのない古い列車へ乗って、さらには鉄道好きなふたり——そのときにはまだ小学生だったはずの米河清治と、その大先輩にあたる石本秀一と乗り合わせ、食堂車で同じ時を過ごすというものだった。

 舞台となる「やくも」は今も出雲市駅から岡山駅を走る列車です。ただ、4人が会する食堂車はすでになく、そして鉄道好きのふたりは出会う機会がないはずの年齢差で。実に不思議ですし、違和感がありますよね。どうしてこんな夢を4人が見たのか?

 でも、彼らそれぞれの視点から同じ夢が語られていくことで、不思議は全きひとつへ集約していくのです。さらには、ここまで折り重ねられてきた違和感がこの上ない納得感に変わる。この作品の魅力はまさに、小さいけれど分厚いどんでん返しにこそあるのです。

 ぜひご一読ください。そして第11話の「インディアンの伝言」でそうだったのかと膝を打っていただけましたら。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

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