大宮太郎とその妻たまきは結婚式を終えたその日の夜、同じ寝室で同じ夢を見ます。舞台となる特急「やくも」、現在も出雲市駅から岡山駅を走る列車です。
当時小学生だったはずなのに、成人後の米河清治氏と、その大先輩の石本秀一氏の二人がこの列車の出雲市の次の停車駅である玉造温泉から乗ってきて、そこから倉敷到着前まで一緒に飲食したというのが話の大筋となります。
やはり登場人物がそれぞれ同じ夢の世界を異なる視点で一堂に会する舞台設定に、これまでにない斬新な印象を受けます。
また、特急「やくも」の当時存在しなかった食堂車で食事をするという夢が叶う、これもひとえに鉄道趣味者の一種の倒錯した感情からくるものだとすれば、とても興味深く、網膜を刺激する感覚として楽しむことができるのではないでしょうか。
ディーゼルエンジンの音を子守唄に、寄り添い合って居眠り。時代が育む新婚夫婦の睦まじいワンシーンにも癒される活字の綻びを覚え、追体験のような心地よさを感じさせてくれるのも魅力。
『同床異夢』というありふれた言葉から派生し、その概念の殻を打ち破る可能性を夢に託した『同床同夢』。活字の可能性を男たちのロマンに乗せて今日も夢に走らせたい。
結婚式を終えたその日の夜、大宮太郎とその妻たまきは同じ夢を見た。それは乗ったことのない古い列車へ乗って、さらには鉄道好きなふたり——そのときにはまだ小学生だったはずの米河清治と、その大先輩にあたる石本秀一と乗り合わせ、食堂車で同じ時を過ごすというものだった。
舞台となる「やくも」は今も出雲市駅から岡山駅を走る列車です。ただ、4人が会する食堂車はすでになく、そして鉄道好きのふたりは出会う機会がないはずの年齢差で。実に不思議ですし、違和感がありますよね。どうしてこんな夢を4人が見たのか?
でも、彼らそれぞれの視点から同じ夢が語られていくことで、不思議は全きひとつへ集約していくのです。さらには、ここまで折り重ねられてきた違和感がこの上ない納得感に変わる。この作品の魅力はまさに、小さいけれど分厚いどんでん返しにこそあるのです。
ぜひご一読ください。そして第11話の「インディアンの伝言」でそうだったのかと膝を打っていただけましたら。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)