嫌いは好き。反転する彼女の言葉がもたらす最高で最悪の苦み

 大学1年生男子の“俺”は、空から降ってきた匣瀬理名砂を受け止める。そして大学内で彼女の声を聞いた者なしと謳われる超絶無口な彼女に言われるのだ。「は、離さないで! この健全男子っ!」。名砂の言葉は内容が反転する。彼女はそれをひた隠して生きていた。それを知った彼は彼女を影から助けるようになり、やがて恋人になるのだが……

 ヒロインの名砂さんは嘘がつけなくて、ただしその言葉が真逆反転します。そんな人なのでお話もラブコメに転がるのかなと思いきや、違うんですよ。関係性が進んでいくにつれ、主人公は反転する彼女の愛の言葉に痛みを感じるようになっていくのです。

 関係性は本当にささやかなことをきっかけに生み出される反面、同じささやかさをきっかけに消失してしまうもの。コミカルな設定であるはずの“反転”が、物語までもを反転させてたまらない苦さを醸し出す。それこそが物語最大の魅力で、読みどころなのですよね。

 ビター&ビターな恋愛劇、反転せずに言わせていただくと極上です。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

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