現代の日本を悩ます少子高齢化。我々現代人はこの問題を乗り越えるべく、もっと子供を産む・育てるということについて考えていくべきではないだろうか……? などと社会派っぽい導入をしてみたものの、結婚する予定はないし、お盆で実家に帰ったのに息子への期待をすっぱり諦めた両親からは特に何も言われませんでした……世知辛いですね。そんなわけで(?)今回は赤ちゃんが登場する小説特集です。赤ちゃんがメインといっても、ファンタジー世界での子育てから、赤ちゃんが探偵役を務めるミステリー、さらには反出生をテーマに盛り込んだホラー小説など、微笑ましいものからこの季節にぴったりな作品まで、その内容は千差万別。同じ題材を扱っていながらこれだけ多種多様な作品が生まれるという各作者様それぞれの作家性を是非楽しんでください。

ピックアップ

探偵はベビーカーで推理する

  • ★★★ Excellent!!!

推理小説では、猫だったりロボットだったり幽霊だったり、風変りな探偵が多数存在するが、本作の探偵はそれらに負けない変わり種、なんと赤ちゃんである。文豪・三島由紀夫には自身が産湯につかっていた頃の記憶が残っていたというエピソードがあるが、本作の主人公は記憶があるどころか、リアルタイムで自らの状況を明晰に分析しているから恐ろしい。

赤子でありながら妙に冷静な語り口調で、身の回りで起きる事件の真相を次々に看破するのだが、一つ大きな問題がある。この探偵、赤ちゃんなので喋れないのである……! そんな赤ちゃん探偵があの手この手で周りの人間に自分の意思を伝えつつ、事件に立ち向かう本作品。

設定だけの出落ちかと思いきや、誘拐事件(被害者は自分!)に殺人事件、お腹がすいたのに家族が家にいない事件(?)に孤島で起こる連続殺人事件とバリエーション豊かな事件が次々と起きて、いずれもしっかりとした推理を披露してくれるし、さらには読者への挑戦状に、大どんでん返しといった仕掛けもしっかり用意してくれる、決して甘く見てはいけない内容となっている。

(「こんにちは、赤ちゃん」4選/文=柿崎 憲)

冴えないお父さんとチートな娘によるおかしな日常の物語

  • ★★★ Excellent!!!

自分の子供は凄い。もしかするとこの子には特別な才能があるんじゃないか……なんて思ってしまうのは、どんな親でも一度はあることだろう。しかし、本当にその子が天才だとしたら……というコンセプトの本作品。

難産で妻を失い、男手ひとつで子供を育てることになった杉本良夫。育児に専念するために仕事を辞めて、人よりも頭が大きい娘の真実の将来を心配しながら、フリーランスの翻訳家として働く日々。しかし、忙しくなるにつれてiPadを渡して動画を見せるだけというおざなりな育児が続いていた。そんなある日、仕事中に突然届く空メール。送り主は娘の真実で、メールの意味はおなかが空いたというサインだった。それ以来、真実はiPadを使って、次々と赤子離れした行動を起こしていく……。

ベビーベッドから一歩も外に出ないのにiPad一つで次々と行動を起こしていく娘の真実。父の心配をよそに、FXで父よりも多くお金を稼ぎ、郊外に家を買い、さらにそこで新たなビジネスを展開していき、子育てものかと思われた物語は、気が付けば異世界転生系で見られる領地経営もののような展開になっていく。

どんどん規模が大きくなる真実の行動は非常に爽快感があるのだが、本作をより面白くしているのは、物語はあくまで父である良夫の視点から語られるという点。

真実の代理人のような形で娘の指示に従っている内に、本人はどんどん偉い立場になっているにも関わらず、どこかのんびりとした雰囲気を保っており、このギャップが非常に楽しいのだ。

(「こんにちは、赤ちゃん」4選/文=柿崎 憲)

親バカ魔王様と娘のリリスの愉快な日常ファンタジー

  • ★★★ Excellent!!!

何万年の長きにわたり魔族の王として君臨してきたルシファー。ときに刺客に襲われることはあれど、基本的には変わりばえの無い日々を送っていた。そんな中ある日彼は城門の前に捨てられていた人族の赤子を見つけ、彼女を育てることを決意する。

以前にも動物を拾っては、すぐに世話に飽きて側近に任せてきた前科を持つルシファー。今回もどうせすぐ飽きるだろうと思われていたのだが、意外や意外。飽きるどころかその愛情は増す一方で、勇者との戦いや、人族の反乱の鎮圧のときでも娘・リリスを手放さなず、彼女が保育園で男の友達を作れば、その子に思いっきり嫉妬するという親バカっぷり。おかげで公務は滞り周囲の負担は増すばかり。

日々成長するリリスも可愛ければ、その娘にメロメロなルシファーも実に可愛らしい。そんな魔王に振り回される部下たちはいずれもキャラが立っていて、300話近い話数にも関わらず、いつまでも読んでいられる楽しいファンタジー作品だ。

(「こんにちは、赤ちゃん」4選/文=柿崎 憲)