冴えないお父さんとチートな娘によるおかしな日常の物語

自分の子供は凄い。もしかするとこの子には特別な才能があるんじゃないか……なんて思ってしまうのは、どんな親でも一度はあることだろう。しかし、本当にその子が天才だとしたら……というコンセプトの本作品。

難産で妻を失い、男手ひとつで子供を育てることになった杉本良夫。育児に専念するために仕事を辞めて、人よりも頭が大きい娘の真実の将来を心配しながら、フリーランスの翻訳家として働く日々。しかし、忙しくなるにつれてiPadを渡して動画を見せるだけというおざなりな育児が続いていた。そんなある日、仕事中に突然届く空メール。送り主は娘の真実で、メールの意味はおなかが空いたというサインだった。それ以来、真実はiPadを使って、次々と赤子離れした行動を起こしていく……。

ベビーベッドから一歩も外に出ないのにiPad一つで次々と行動を起こしていく娘の真実。父の心配をよそに、FXで父よりも多くお金を稼ぎ、郊外に家を買い、さらにそこで新たなビジネスを展開していき、子育てものかと思われた物語は、気が付けば異世界転生系で見られる領地経営もののような展開になっていく。

どんどん規模が大きくなる真実の行動は非常に爽快感があるのだが、本作をより面白くしているのは、物語はあくまで父である良夫の視点から語られるという点。

真実の代理人のような形で娘の指示に従っている内に、本人はどんどん偉い立場になっているにも関わらず、どこかのんびりとした雰囲気を保っており、このギャップが非常に楽しいのだ。

(「こんにちは、赤ちゃん」4選/文=柿崎 憲)

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