今回の5本は「感慨」をテーマに選ばせていただきました!結果として物語形式のものはオチの切れがいいものになりました。オチの切れはいかに前半でエピソードをきちんと積み重ねて展開の意味を深めるか、または積んできたものをばっさり裏切るかにかかっているわけですが、「地図の上の旅人」、「AM 7:15」、「Q.もし異世界に一つだけなんでも持っていけるなら?」はその点が実にすばらしかったです。そして歴史解説の「崔浩先生の「五胡十六国」講座」とエッセイ「リアルRPGを日本でやりたい!! LARP奮闘記」は、実話だからこその説得力と語り口のよさで、高品質な読後感のよさを味わわせてくださいました。というわけでみなさまにもぜひお勧めさせていただきますー。

ピックアップ

「やわらかさ」に惹き込まれる異世界トリップストーリー

  • ★★★ Excellent!!!

18歳の誕生日、パラレルワールドへ迷い込んでしまった原田真由美は“自分自身”と対面してしまう。
しかもまわりには向こう側の自分の友だちがいて、それはもちろん見知らぬ人たちで……
という状況から始まるこの物語、主人公の真由美さんが見も知らぬ世界で見も知らぬ人と心を通わせていく王道のストーリーラインなんですが。

それをなんでもない風に、それでいて滋味深く味つけしてくれる個性的なキャラクターたち。そして各エピソードを支えるドラマの数々。
真由美さんのやわらかな一人称と相まって、気がつけば一気に読み進めさせられちゃうわけです。
そして読み終わった直後、ふとタイトルを顧みて気づかされる「このタイトルはそういうことか」のカタルシスですよ!

王道でここまで綺麗に「著者ならではの筆と味」を醸し出されたらもう、読む側としては転がるしかありません。
穏やかながら山あり谷ありオチもあり。恋愛ものが苦手な人にもお勧めできる一作です。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)

ライブだからこそ難しくておもしろい「LARP」!

  • ★★★ Excellent!!!

ちょっと聞き慣れない「LARP」という言葉。
ライブ・アクション・ロール・プレイの頭文字をとったものなのですが、ようは参加者自身がキャラクターになってRPGしたりする遊びですね。
著者は日本を代表するLARPのしかけ人のひとりで、この話はそのLARPを広めようと行動し続けている著者の奮闘記なのです。

読んでみてなにより感じるのは、「人間同士だからこその難しさ」。
スタッフもプレイヤーも人間、衝突や思わぬ計算違いが多々出てきます。
そこへ、日本ではまったく知られていないものを立ち上げようという苦労が加わるわけですからもう大変です! 

その様をあえて赤裸々に、しかし努めてコミカルに語る著者の言葉にはリアルならではの重みがあります。
そして厳しい状況が少しずつ拓けていく展開には、リアルならではの喜びがあります。
まとめて言うなら、ノンフィクションならではのおもしろさがあるのです。

普通に読み物として、またはLARPへの入口としてお勧めです。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)

異世界で生きるために必要なたったひとつのものって?

  • ★★★ Excellent!!!

これはミステリか? と言われると悩ましいのですが。
最近のライトノベルで一大ジャンルとなっている異世界転生もの、それによくある「転生者にはひとつだけ望む力を与えられる」という設定をテーマにした短編です。

こちらの世界で死んだ主人公のヤマトは女神様にこの問いを投げかけられ、満を持して「全知全能(アカシックレコード)」と答え、意気揚々と異世界へ転生していくわけです。

オチを言ってしまうとアレですので、どうなるかはご自身の目でご確認を。

ただ、つけられている【どんでん返し】のタグの意味を、すごい勢いで思い知らされるってことだけは言わせていただきますね。
そのオチの妙は落語のようであり、風刺のようでもあり、壮大なアンチテーゼのようでもあり……
ともあれあなたの心にシニカルな爽快感を刻み込んでくれること確実です。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)

華やかじゃないけどおもしろい! 五胡十六国時代の解説書

  • ★★★ Excellent!!!

五胡十六国時代。それはあまりにも有名な「三国志」時代の後、三国を滅ぼして中華統一した晋を起点に語られるごりごりの暗黒時代のこと。

で、三国志の陰に隠れてなかなかにマイナーなわりに、出てくる人がもれなく殺し殺されを繰り返しちゃう凄絶すぎるこの暗黒史を“崔浩”というキャラクターが紹介してくれるのがこの作品。

物語は崔浩さんの口述体で語られていきますが。彼の古語調でありながら軽妙な語り口と、歴史をざっくりとりまとめつつ要点を押さえた説明に、読んでいる側は思わず「え、これってどうなっていくの?」とページをスクロールし、次のエピソードをクリックせずにいられません。

なんでしょう、事実は小説よりも奇なりそのものって言いますか。
言ってしまえば超大規模なヤクザの抗争劇を見ているような気分を味わわせてもらえます。

確かな筆で語られる、狭間の歴史絵巻。
中国史のおもしろさを再確認させてくれる解説書なのです。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)