今回も下読み視点で惹きつけられた作品を選ばせていただきましたよー。
 文章のライトさ・ヘビーさに関係なく、読みやすい文章というものがあります。文章が一本調子じゃなくて短文と長文でメリハリがあるもの、文章にリズムがあるもの等々がそれにあたるのですが(言い換えれば文がうまい、ということになりますね)、今回は特にそのへんを重視して、さらにおもしろかったものをチョイスさせていただいております。
 唯一の誤算は、ハードル高く設定して意気込んだわりには、そのハードルをぽいぽい越えてこられる作品が多かったということですけれどもね。……ともあれお楽しみいただけますことは確約! ぜひぜひクリックしてみてくださいませー。

ピックアップ

気丈な武家娘と捕らわれの若様が織り成す騒動と恋の時代絵巻

  • ★★★ Excellent!!!

主人公の美緒は武家の娘。藩屋敷で働いていた彼女はある日江戸屋敷行きを命じられた。果たしてそこで待っていたのは、首が落ちるようだと武士が忌み嫌う「椿」の名を自ら名乗る不可思議な男だった……という感じで始まる時代小説なわけですが。

屋敷に閉じ込められた椿の世話をする美緒は気づくのです。椿が狂人を演じていることに。
気づかれた椿は少しずつ美緒に心を許していきます。
その様が実にキュートなんですよねぇ。男性なのに姫君キャラと言いますか。

そして、そんな人が実に難しいお家の事情の渦中にいることを美緒は知って、覚悟していくわけです。自分がどう生きるかを。ここで感心するのは美緒が女剣士でも軍略家でもない、ただの女子ってことです。

キャラ設定じゃなく、キャラの心情の動きを見せてくれる展開に、ぐぐっと引き込まれずにはいられませんよ!
芯の太い物語と、姫な若様との恋愛劇。両方味わえる一作です。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)

転落する高校生の後ろに立つ、謎のジャンピング・ジャックを追え!

  • ★★★ Excellent!!!

登校中、あろうことか同じ学校のサッカー部エース、泉田秀彦がマンションの窓から落ちていくシーンを目撃してしまった川原鮎。
一連の騒ぎの中、彼女は泉田の携帯へ謎のメールを送っていた“ジャンピング・ジャック”との対決を決意することに。

まず感じたのは構成力の高さです。1話読んだ直後、ごく自然に2話めを読み始めてしまいました。
一人称による軽妙な文章運びと、それこそページをめくるごとにひとつずつ物語が解き明かされていくワクワク感、この「筆の引力」はすばらしいのひと言。

そしてすべてのカギになるジャンピング・ジャックですよ! 
死んだ泉田君を追う中で浮き彫りになってくる、彼と同じように転落死した他の高校生の存在。
彼らとジャックの関係は? ジャックの目的は? そもそもジャックの正体は? 

最後まできっちり物語を引っぱってくれる強力な存在感、まさにミステリの真髄を味わわせくれる名敵役なのです。

おもしろいミステリが読みたいなら迷わずこれ! お勧めです。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)

陸で暮らす船乗りのお嫁さん、その毎日を綴る嫁/母エッセイ

  • ★★★ Excellent!!!

貨物船の船員さんを夫に持つ女性のエッセイ。旦那さんは一度船に乗ってしまえば何ヶ月も戻ってこない生活。
ですが、著者の方に悲壮感はありません。
著者さんご自身がご結婚前は海の女だったこともあるでしょうが、お子さんがいて、日々の生活があるから。

そういうお話がつらつらと語られていくだけで船乗りの家族ならぬ私には興味深いですしおもしろいのですが、本作にはなにより女性――特に母という存在のたくましさといいますか、「生きてる感」が満ち満ちています。
いや、お子さんがらみのお話、実に色合い豊かで読みふけってしまいました。
うーん、私もこんなお母さんがいたらマザコンになれていたにちがいありませんね。

という邪念はともあれ。
合間に挟まれている結婚前のエピソードもなるほどーの連続。
なかなか知ることのできない世界を垣間見せてくれる「生活記」、みなさまもぜひのぞいてみていただきたいと思います。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=髙橋 剛)