怖いという感覚、ありますよね?
「追い詰められる」とか「血が飛び散る」とか
ホラー作品で登場する表現は
「日常の中で唐突に死の臭いがするから」
だと私は思っていました。
突然見えた逆さまの顔。
当たらぬ予言を告げるその顔は、
何故か何かに反射した時だけ見えるのです。
怪異と呼ぶには十分な怖さなのに、
この作品の本当の怖さは、
「日常の中」に
「唐突」に
「死の臭い」がする瞬間に始まります。
でも、決して追い詰められないし、
血も出ない。
「疲れてるんだ、屹度」と
最初は勘違いのように思おうとした「私」は、
ある予言を境に
「死の恐怖」に取り憑かれるのです。
死の恐怖は、死ぬことへの恐怖。
ですが、物語終盤、
その恐怖の意味合いは大きく変化します。
序盤から最後まで、すべてが秀逸でホラーです。
是非ご覧ください。
ゾッ……と静かにあなたを震わせてくれます。
気が狂ってしまうので、鏡に向かってお前は誰だと問うてはいけないと聞いたことがありますが、こんなのが映ったら問わずにいられないな……と思いました。
主人公はある日、マグカップの中に変なものを見つける。浮いてるんじゃなく、映っているのを。
マグカップだけじゃない、鏡でも水でも、反射するところならヤツはどこにでも現れる。
で、何やら予言めいたことを残してはすっと消えていく。
……お前は誰だ?って、訊きたくなりませんか。
いえ、そう問いかけちゃいけないのは鏡に映った「自分」に対してであって、得体の知れない予言者に対してではないのですが……このお話を読んで、なんだかずいぶん前に知ったそんな話が思い出されたのです。
しかしアイツ……何者なんでしょう。
なんだか軽いレビューになってしまいましたが、こちらの作品はホラーであって、私も「ヤツ」なんて絶対に見つけたくありません。そりゃ「誰だ」とは問いたいですが、実際にはその前に気が狂うことでしょう。
現実的に想像すればするほど恐ろしいお話です。寝る前に読まなくてよかったと思っているくらいです。
ぜひぜひ。
本作を読んですぐに、小泉八雲の「茶碗の中」という短編作品のことを思い出しました。
「追い詰められた崖の上にでもいる気分になる」とされる話がある。
そんな出だしで始まる物語で、ある男が「茶碗の中」を覗き込むと、その水面に一人の人物の顔が映りこんでいる。
それを飲み干した後、茶碗に映っていたのと同じ顔の男から「自分に対して酷いことをした」と詰め寄られるというもの。
果たして、茶碗に映った顔はなんだったのか。その後に男から問い詰められたこととは何か関係があったのか。
そんな、不思議な余韻を残す物語でした。
本作も、「マグカップの中のコーヒー」に、不気味な顔が映りこむところからストーリーが始まります。
今回は飲み干す前に、「数日後に起こること」が「予言」のような形で伝えられる。
しかし、的中はしない。「顔」が語ってくる予言はなぜか百パーセント外れるという。
これだけでも不思議な話ですが、その後の展開がまたゾワッと来る感じになっていくのが強烈でした。
「予言をしていた存在は何者だったのか」、「予言の言葉は何を意味していたのか」と、どうしようもない不気味な何かが迫ってくるような、強い余韻を読者に与えてくれます。