スズムシはどこ

文鳥亮

スズムシはどこ(一話完結)

 ある小学校に、とてもよく似た兄弟がいました。五年生のシンイチ君と四年生のシンジ君です。

 秋になって、シンイチ君がスズムシをもらってきました。大きな虫籠に十五匹もいます。夜にはリーン、リーンととても奇麗な声で合唱します。一方、シンジ君はカエルを飼っていました。マー君と名付けてかわいがっています。

 次の日、なんだか変です。数えてみるとスズムシが十二匹しかいません。共喰いが心配でエサもたくさんあげましたし、食べ残りの羽や脚も見当たりません。原因はさっぱり分かりませんでした。

 次の日には九匹に減っていました。共喰いの線もたぶん消えました。シンイチ君はシンジ君を疑って怒りました。

「シンジ。もしかしてマー君にスズムシを食べさせただろ。そういうの良くないよ。こんどやったらお仕置きするからね」

 シンジ君は言い返しました。

「ぼく、マー君にスズムシなんかあげてないよ」

「じゃあなんでスズムシがいなくなるんだよ」

「ぼくが」

「ぼくがなんだよ?」

「秘密を教えてあげる」

「何言ってんだ。くだらない話はやめろよ」

 その後二人は口をきかなくなりました。でも翌日には六匹に減っていました。シンイチ君は絶対マー君が犯人だと思いました。彼は、シンジ君がお風呂に入った隙にマー君をどうにかしようと思いました。こっそりシンジ君の部屋に入り、飼育箱のフタを開けます。(首をしめてやる)と思って手を出しましたが、結局かわいそうでできませんでした。

 翌日には四匹です。もうリーン、リーンも寂しいでしょう。シンイチ君は困り果てて、隣のクラスの物識り博士ことタカシ君に相談しました。タカシ君は言いました。

「それなら良い隠しカメラがあるから、仕掛けてみる?」

 シンイチ君は(危ない奴だな)と思いましたが、背に腹は代えられません。その日、タカシ君に来てもらって、虫籠の端っこに仕掛けました。それは超小型の高感度カメラで、葉っぱの下にさりげなく隠しました。でもパスワードが掛かっているので、翌日タカシ君の家で結果を見る予定です。

 次の日、スズムシは二匹に減っていました。いまさらですが、犯人を突き止めてこれだけでも助けようと思いました。でも、せっかくタカシ君の家に行ったのに、パスワードのメモが見つからず、その日は見られませんでした。

 翌日、スズムシはたったの一匹になっていました。もう手遅れかもしれません。

「シンイチ君、犯人が写ってたよ」

 放課後、タカシ君がシンイチ君を見つけて告げました。証拠の動画を見るために、二人は一緒にタカシ君の家に行きました。

「ホント言うと、見ない方がいいかも」

「どうして?」

「あまりに怖いから」

「そうなの? マー君じゃなかったの?」

「うん、全然違ってた。もっと‥‥‥」

 でも結局シンイチ君は動画を見ることにしました。タカシ君のタブレットで再生します。

「あ、ここだよ」

 シンイチ君は目を凝らします。画面には虫籠のフタを開けるシンジ君がアップで写っています。やっぱりです。ところが、次に奇妙なことが起こりました。シンジ君が棒のようなものをくわえてそれが消えたのです。あまりに早くて何があったか分かりません。

「え? なにこれ。戻してスローにできる?」

「できるけど、ホントに見る?」

「うん」

 タカシ君は渋々スローで再生しました。シンジ君のアップが出ます。そして、棒に見えたのは口から出たベロでした。それがびゅーっと伸びてスズムシに絡まり、また口の中に戻ります。そして、口をもぐもぐさせたシンジ君は、そのままスズムシを食べてしまいました。

 なんということでしょう! 人間がベロをびゅーっと伸ばして虫を食べたのです。

 シンイチ君は真っ青になって黙り込んでしまいました。それはショックですよね。弟がカメレオンのお化けかもしれないのですから。

 タカシ君は恐る恐る尋ねました。

「ねえ、シンイチ君、どうしようか? ‥‥‥お父さんに見てもらう?」

「いや、こうするよ」

 あろうことか、いきなりシンイチ君の口からベロがびゅーっと伸びて、タカシ君の目に突き刺さりました。

「痛い! なにするの、やめて!」

「よくもぼくの正体を暴いたな」

 いま気づきましたが、そこにいたのはシンイチ君ではなくてシンジ君でした。その顔色は真っ青というより完全な緑色に変わっています。

 次の瞬間には、

「ぎゃああああ」

 タカシ君のさらなる悲鳴が響きわたりました。



             —— 了 ——

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スズムシはどこ 文鳥亮 @AyatorKK

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