安寧を奪われた動く屍の都で、戦う者たちのレクイエム

故人の肉体に新しい魂が入り込み、ゾンビと化す世界で、死者をインフラとした最大の産学連携都市・インゴルヌカ。迫害されるゾンビたちの最後の安住の地であるはずの都は、未だ生者と死者双方の未練が渦巻き、「鎮伏屋」の青年は依頼人の案件の解決に奔走する。

多人種多言語が混在する都市と、SF的なギミックの数々、ハリウッド映画的な人物造形と彼らの関係は、世界観が緻密なエンターテイメント小説が好きなら大満足の逸品。

科学とホラーは一見相性が悪そうに見えるが、本作は違う。テクノロジーでは解決できない問題、つまり、感情を救うために戦うのが「鎮伏屋」だ。死と蘇生が当り前の世界で、取り零された死者の無念と生者の祈りに引き起こされる事件の数々はホラーの醍醐味でもある。ゾンビのように死んでも潰えない想いに突き動かされる関係性の熱さも魅力的。SFとホラーの両側面から「死」を見つめ直す、足掻きの果ての許しの物語だ。


(「ホラー×〇〇」4選/文=木古おうみ)

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