死者すら死者に敬意を払わぬ、生と死のるつぼ!インゴルヌカへ今旅立とう!

 第一章まで読ませていただいた者です。
 この物語の魅力は、やはりこの世界観にあるなと私は考えております。第一章の第二エピソードくらいまで読んでみて下さい。「こ、これは!」と感じた方は、多分ハマる要素があります。

 インゴルヌカ。まずこの舞台の猥雑さが良いですね。
 フィンランドが本当にこんな感じかはよく知らないのですが、あらゆる人種、綺麗さと汚さ、生と死。あらゆるものを無理矢理同時に混ぜ込んだこの『カオスな遠い異国の地』感。そこが気に入れば、読むのが楽しくて仕方なくなるでしょう。
 特に私は異国にある中華街が持つあの雰囲気が好きで、そこに賭け試合をやらせる違法闘技場が加わった時は「あっ、最高か?」と思ったものです。

 そして更にラブリーなのは、やはり死の神聖性を冒涜した、この世界観であります。
 死んだ者が訳も分からずゾンビとして蘇る。それもロメロめいたクリーチャーとしてではありません。見た目も普通、人間のように思考し、生活できる。こんなに差が無いならば、生と死の境界線とは何なのでしょうか。
 セックスもできるし子どもも設けられるというところが特に良いです。死から生が生まれるというこの矛盾。たまりません。

 死者への敬意の無さは更に続きます。死者の中にも、人の技術によって蘇り、使役される者(ワイト)がいる。
 彼らはゾンビと違い『人間として蘇った』わけではありません。道具なわけです。自我が無い、人権が無い。当然死者(ゾンビ)が死者(ワイト)を使うって場合もあります。
 死者の肉体を使ったその便利な道具を製造することは、インゴルヌカの『主要産業』。死者への迫害を恐れ逃げた者達が集ったこの土地で、死者が死者を冒涜している。この矛盾は本当に味わい深いものがあります。

 こんな魅力的な世界で動き回る登場人物達の物語。魅力が無いわけありましょうか。
 エピソード一本一本は短めに設定されており、見た目よりも遥かに読みやすいです。皆さんも是非どうぞ。

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