スクロールする手と涎が止まらなくなる一品

主人公は傷を持った料理人だ。トラウマから包丁を握れなくなってしまっている。そんな彼が意図せず訪れることになったのは別の世界だった。

何と言っても始まりはラクレットバーガー。
異世界に迷い込んだばかりの主人公が手にしていた料理だ。これは彼の傷に関係する品であるようだが、それは本編で語られるべき話なのでここでは触れない。
物語の始めに、このラクレットバーガーを巡って一悶着巻き起こる。その時にこれを食べられてしまうわけなのだが、これがいかにもおいしそうなのである。思わず涎が溢れてきて猛烈に食べたい欲が強まるが、読むだけでも微妙に腹が膨れた気がした。

そんなこんながあって、ようやく登場するのが本作品タイトルにもある「料亭みとり」だ。
アンデッドを専門にした料理店で、ここを営むのは仮面をつけて独特の雰囲気を持つ女性ミト。一体彼女が何者なのか分らないが、努力家であることは読むと理解できるだろう。

じゃぱねぜ、とこの世界で呼ばれているのは、恐らくは日本のことだ。彼女が努力家と言っても日本のことは情報が少ないようで、知らなかったり、間違った情報があったりする。
そのため熟語を言い間違えるのだが、これがいい具合に力を抜けさせてくれる。しかし一体何を読んでそういう読み方に辿り着いたのが疑問だ。

そんなミトという女性は人を惹きつける力がとても強い。魅力的な人間だ。登場した瞬間はどことなく胡散臭さを感じていた。何せ仮面なんてものをつけている。
だが、読み進めるうちに好きになっていった。なんとも生き生きとしていて、本当に楽しそうに動く姿は最高だ。一家に一人欲しい勢いである。

と、そうしたところで遂に料亭みとりに客がやって来る。
亡霊として長く暮らす客の注文は、古く、失われた料理。
それを主人公とミトの知識により探っていくのだ。
これがワクワク感を煽ってきて、さてどれくらいおいしい料理が出来上がるのかと、期待の眼差しで読み進めることが出来た。

心がとても温まる。
キャラクターたちはそこで生きていて、死んでいるのだと強く感じる物語だ。

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