執刀

 竜を手術する。左様な発想は本作で生まれて初めて接した。不肖マスケッター、逆立ちしても、百回生まれ変わっても不可能な超人的跳躍点である。
 モノにもよりけりだが、よほど緊急な事態でない限り手術なるものは執刀医だけで行うものではない。麻酔科医、臨床工学技師、看護師といった人々がチームを組む。
 であるからには、本作が群像劇になるのも当然だ。語り部の魔法使いも充分に魅力的な人物ながら、一人一人のドラマや背景を鱈腹堪能出来る内容になっている。
 個人的には、ミスリルを鍛造していく場面が最も白眉に感じられた。それが単なる刀鍛冶を突き抜けて、国際的な力関係や駆け引きの影響を受けていることも重く厚く語られている。
 これほどの大作はそう滅多には目にかからない。本作の作者は、恐らくは旅行から帰ったらサービス精神ふんだんに土産話を隅から隅まで語り尽くすタイプではないだろうか。
 いざ、竜退治ならぬ竜治療へ。
 

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