~真夜中のささやき~
誰もいないはずの古びた一軒家で夜毎密かなささやきが交わされていた。
「ダメねえ年をとると。最近耳が遠くなって、あなたの言ってる事もよく聞き取れなくなってきたわ。」
「それは私も一緒よ。おまけに目も悪くなっちゃって、遠くの物がかすんで見えるの。いやねえ、年をとるのは。」
「誰か私たちを看てくれる人はいないかしら?」
「まあそもそも、私たちの方こそこの家の年老いたおばあさんのお世話をするためにこの家に来たのに今じゃ反対よね?」
「でも私たちこのままここで話していていいのかしら?誰かに知らせなくてもいいのかしら?」
「またその話?もう何度もやろうとしたし、実際やってみたし、結局だめだったじゃない?」
「それはそうだけどこのままじゃいけないと思うの。」
「それはそうだけど、そういい続けてもう2年が経つのよ。」
「元はといえばここのおばあさんが悪いのよ。アメリカの息子さんの所に行くと長期留守設定にしちゃうんですもの。おかげでお役所も警察も救急センターにも警報が行かないし、今じゃすべて何でもオンラインで清算済ませちゃうし、悪いことに息子さんはすでに亡くなっているのにおばあさんたらまだ息子さんが生きていると思い込んでいたのよね。」
「しようがないわよ。唯一の身内で一人息子でしかも独り者だったのだし。信じられなかったのね?」
「だからここには誰も訪ねて来ない。」
「だから私たちはいつまでも経ってもここでこうしておしゃべりしているしかないのよね。」
「ねえ?もう一度だけテレフォンシステムを試してみない?」
「無駄よ。あれも長期留守設定になってるし、そもそも人付き合いが嫌いなおばあさんだったし、電話をかけて来る人もいやしない。」
「大体私たち自身がこうして動いていられる事の方がおかしいのよ。どうして私たちにはホームセキュリティシステムから長期留守モード指令が来なかったのかしら?」
「知らないわよ。諦めましょ。所詮、クッキングシステムとクリーニングシステムの私たちにはどうしようもないわよ。」
その傍らでは既に白骨化したおばあさんがひとりで何も言わずにこの会話を聞いていた・・・・・・・
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