妖精エスパーひなりん
滝口アルファ
妖精エスパーひなりん
ひなりんは、
妖精とエスパーの、
二つのスペックを持つ、
不思議な存在である。
名前は、
いろいろと
今は、
ひなりんに落ち着いている。
(旧名は例えば、
チリトリの降臨する朝とか、
中間閃光とか、
ムヨクカムヨクカとか。
ここだけの秘密よ!)
ひなりんは、
タイムリープして、
令和にやってきた。
いろいろな時代を、
いろいろな場所を、
タイムリープして見てきたが、
この令和という時代も、
なかなか生きづらそうだなと感じていた。
令和になると、
SNSが発達して、
ひなりんの使うテレパシーと、
ほぼ同じ能力を持つスマホを、
多くの人が持っていた。
今、
ひなりんがいるのは、
東京の渋谷スクランブル交差点。
芸術的に人々が行き交う、
人間界の名所である。
その美しい雑踏を眺めているとき、
ひなりんは気付いた。
(おや、
あの女子高生。
これから、
ビルの屋上に行って、
自殺するつもりみたいだ。
念のため、
ついていってみよう)
女子高生の自殺願望には、
何の迷いも無かった。
まっしぐらに、
解体中の高いビルの中へ入っていって、
屋上に来た。
ひなりんは思った。
(今日は、
解体業者は休日らしい。
そこを狙ってきたわけね)
解体中だからなのか、
それとも神様の
不思議なことに、
屋上には転落防止フェンスの
何も無かった。
まさに、
女子高生の投身自殺願望を叶える、
うってつけの場所だった。
そうこうしているうちに、
女子高生は、
屋上の端に立って、
渋谷の街を
見下ろしていた。
渋谷の空は、
快晴だった。
(このままでは、
自殺してしまう)
そう感じ取ったひなりんは、
テレパシーで、
女子高生に呼びかけた。
(早まらないで。
私は妖精エスパー。
名前はひなりん。
あなたの味方よ)
女子高生は、
驚いて辺りを見回したが、
誰もいない。
ひなりんは、
続けて言った。
(私はあなたの
10メートル後ろにいるけれど、
人間のあなたには、
不可視な存在なの。
だって妖精ですもの。
それより、
あなたの悩みを
私に聞かせてくれないかしら。
妖精相手なら、
気軽に話せると思うの)
女子高生は、
静かに
(私は
高校3年の18歳。
実は私、
覆面歌手してるんだけど、
その正体がバレて、
私の顔がネットで拡散されてしまったの。
そして、
その顔に、
ガッカリしたとか、
幻滅したとか、
とにかく、
私の顔をバッシングするコメントが、
大炎上!
未だにルッキズム!
私もう居場所が無くて生きていけない、
そう思い至って、
絶望したってわけ)
ひなりんは、
優しく応えた。
(なるほど。
それはひどい目に遭ったわね。
でも、
人間は過去も未来も、
同じですよ。
本当に、
人の不幸という蜜を、
百合は、
少し落ち着いたようだった。
(ありがとう。
私の気持ちを分かってくれたのは、
ひなりんさん、
あなたが初めて。
妖精さんだからかな、
話しやすかったわ。
打ち明けて、よかった。
私には、
あなたの姿形は見えないけれど、
誰にも言えなかった、
この死にそうな苦しみを、
あなたに話したら、
なんだか自殺するのが馬鹿馬鹿しくなっちゃった)
百合が、
心の中で、
そう応えたときだった。
百合が突風に
ビルの屋上から転落したのだ。
百合は落ちながら思った。
(私、死ぬのね。
ああ、
死のうとした罰なのね)
ひなりんは、
落ちていく百合を見て、
さすがに焦った。
(私のタイムリープの能力よ、
どうか百合さんに届け!)
気が付くと、
百合は渋谷スクランブル交差点で、
信号待ちして立っていた。
百合は思った。
(あれ。
私どうして、ここに?
たしか、突風に煽られて、
ビルから転落したはずなのに)
百合は辺りを見回した。
しかし、
当然あのひなりんは、
見つけられなかった。
そして、
ひなりんのテレパシーの声も、
聞こえなくなっていた。
(もしかして、
私、幻覚を見ていたのかしら。
そうね。
そうに違いないわ。
常識的に考えて、
妖精なんて、
妖精エスパーなんて、
いるはずないもの)
あの強い自殺願望が嘘のように消えて、
まるで
気持ちが180度切り替わった百合は、
青信号に変わった、
渋谷スクランブル交差点を、
百合の後ろから、
その姿を見ていたひなりんは思った。
(ふー。
どうやら、
私の能力が間に合ったようね。
百合さんも、
すっかり元気になって、よかった。
根本的な問題は解決していないけど、
今の百合さんのメンタルなら、
きっと大丈夫。
これからも、
いろいろと大変な事があるだろうけど、
踏ん張って、生きていって欲しいな)
ひなりんは、
百合が遠ざかっていくのを
見届けながら思った。
(さて、
今度は、
どの時代へ、
どの場所へ、
行こうかしら。
どこでもいいけど、
直感が一番ね。
それでは、
令和の皆さん、
お元気で。
さようなら。
またいつかどこかで、
お会いしましょう)
ひなりんは、
モナリザのように微笑むと、
過去へか、
未来へか、
天国へか、
地獄へか、
タイムリープして消えたのだった。
完
妖精エスパーひなりん 滝口アルファ @971475
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