読んでいるにもかかわらず飢餓感を覚える、泥沼に沈むとは正しくこんな感覚なのだろう。気づいたときには沈んでいるのが常だが、沈んでゆく様を知覚できる作品は稀だ。
読むべき。
読了時の満足感こそが、本を読むことの最大の目的でありまた手段でもあるが、その世界が広ければ広いだけ、たとえ狭くとも深いだけ疲労する。それは経験していない事柄あるいは経験してはいけない行為を「さも理解(したと錯覚)する」ための代償に他ならないと私は思っているが、そういった意味で、世に溢れる「面白いが読み流せる」作品とは、確実に一線を画している。
地獄がどこにあるのかを口にしても天国は語らない。その重さがいい。
日々の積み重ねを綴ったはずの日記が、自分ではない誰かが読むことで虚実入り交じった伝記となり史実でなくなっていく様をこうも瑞々しくまざまざと感じさせる作品などそうそうあるはずもなく、書籍化されているという事実に今から震えている。書籍化、つまり校正され推敲された完成形がある。なんという僥倖だろうか。いまから週末が楽しみだ。
この作品、おおざっぱに言うとファンタジーとSFの融合、というジャンルになるのかもしれませんが、ボーイミーツ的なラブコメ要素アリ、日常編のグルメもの的な要素アリ、勿論本編のダンジョン攻略や世界の謎に迫る冒険と、その過程における迫力満点の戦闘アリと、とにかく各種要素がこれでもかとばかりに詰め込まれています。そして、それら多くの要素が全体的にメチャクチャ完成度高いんですよ。会話にはキャラクターの「生きた感情」が込められてますし、地の文章も日本語としてハイレベル…、その上で両方のバランスがまた絶妙にイイんですよね。
「これスゲーな」というのが素直な感想でした。
大長編故に(私は一気に読んじゃいましたがw)登場人物が多いですし、所属勢力や世界内の神々等、固有名詞もかなり多いとは思います。途中、少々読み解くのに難解かなと思わせる部分も無いと言ったら噓になるでしょう。覚えられない、わかんない、がツマンナイにつながってしまうかもしれません。そういう意味では、読み手を選ぶタイプの作品なのかなとも思います。
が、しかし、それを十分に考慮に入れて、マイナス面として差し引いたとしても、それでもやっぱり「これスゲーな」が、この作品に対する私の最終的な感想になりますね。『三国志演義』や『氷と炎の歌』シリーズ(ゲーム・オブ・スローンズ)なんかも登場人物多いですし、勢力図も結構な勢いで入り乱れますが、それでツマラナイかというとそんなことは無いでしょう。合う、合わないは別として、面白いモノは面白いんですよ。私の中では翻訳して世界に誇りたいレベル!!!
作者である麻美ヒナギ様には感謝の気持ちでいっぱいです。素晴らしい物語に酔わせていただき、本当にありがとうございました。お体に気を付けて、今後も活躍して下さることを心から願い、祈るばかりです。長年の連載、お疲れ様でした。