自称凡人の主人公が異世界に転移する物語。とある事情により56階層を目指します。
一言で表すなら苛烈です。ソーヤは設定上平々凡々であり、あらゆる苦難を迎えます。苦難は突然に、理不尽にソーヤを襲い、ときに大切なものを奪っていきます。
ソーヤは抗います。何度傷付き倒れよう立ち上がります。大を救う為に小を切り捨てる事をよしとせず、己の全てを懸けて困難を乗り越えていきます。
ソーヤはどんな場面でも文字通り「全て」を賭けます。自分では認識できない代償を払い続け、擦りきれるまで戦い続けるその姿に私は心を打たれました。
傍目から見たら狂気なのでしょうが、狂気こそソーヤの本質なのかもしれません。
終盤辺りの痛々しい姿は、もう平常心では見れません。終わりの時は近い。ソーヤが願う事はただ一つ。私も願います。ああソーヤ、どうか、どうかソーヤに……。
有象無象の多いWeb小説の中で、稀にみる傑作です。これは本物ですわ…。
性的な描写は有りですが、NTR要素はほぼ無いので心の弱い方でも問題無く読めます。ええ「ほぼ」ですので、どうぞあしからず。
昨今の俺TUEEE系やチーレム系とは一線を画する伏線に濃密な話の展開。
それと苛烈に生きる主人公にすごく惹かれました。
特に主人公が重要な戦いに赴くその姿は殉教者のようであり、死を厭わぬ狂者のようでもありました。
4部終了時点まで読了しましたが、3部後編は特に身震いがするほど面白かったです。
その上で日常パートはどこか抜けた姿を見せてくれていて、どことなく人間臭く、ただ戦うばかりではない主人公を魅せてくれていて、続きが非常に気になる仕上がりになってます。
主人公に好意を持つ女性たちもそれぞれ魅力的で、作品によっては出てきた瞬間なんの脈絡もなく惚れてるヒロインさえ多い中、この手のタイプのハーレムは珍しいのではないでしょうか?
また、世界も基本的にご都合主義のようなものではなく、きちんと練り込まれています。
『神の御業は皮肉に満ちている』という一文は、正にこの世界を現している言葉だと思う程です。
人との出会いや別れもしっかりと描写されていて、後味の悪い別れ方さえしっかりと糧にして前に進む彼らの姿を、私自身はまるでその世界を覗いているような気分になりました。