薔薇色えんぴつ

バンブー

薔薇色に変わる

 私の名前は田中サヨリ。

 この話は大学で洋服のデッサンの練習をしていた時に、異変が起こった所から始まります。


「……あれ?」


 青色を取ろうと24色入りの色鉛筆入れを見た時だった。

 青色が見当たらず、何度も見直し、最終的に一本一本確認してもなくなっている。

 青色自体がなくなっている。

 だけれど筆入れは24色は全て埋まっており、おかしな事に被っている色があるわけでも無さそう。

 ただ……何となく赤っ気が多いような気がして目を凝らす。

 その中に何となく見たことの無いような気がする少し濃い赤い色のえんぴつがあった。

 手にとって色の名前を見てみる。


薔薇バラ……色?」


 薔薇色……こんな色なかった気がする。

 いや、週5回この色鉛筆を使っているけど確かこんな色はなかったはず。


「なにこれ?」


 持ち上げて確かめてみてもなんら変哲も無い赤味がかった色鉛筆。

 誰かの物が混ざったのかなと思ったが、ふと他の黒色の鉛筆を手に取り比較する。

 同じメーカーでまったく同種類の色鉛筆。

 いつの間にか私の青色と交換されていた。

 教室には誰もいないし、前の講義で取り違えてしまったのか?

 それにしても薔薇色……使った事のない色だから試してみたくもある。

 悪いとは思いつつ、どんな色味か試してみたいなと考えてしまっている時だった。


「?」


 自分が描いていた絵に違和感があった。

 服のデザインを描いていたのだけれど、全体的に赤味がかっている。

 青い模様をいくつかあったはずなのに、それがなくなっている。


「え……」


 そう思った矢先持っていた黒かった色鉛筆がいつの間にか薔薇色に変わっていました。


「う、嘘でしょ……」


 手元には薔薇色のえんぴつを2本握りしめていた。


「ッ!?」


 鉛筆入れを見ると全ての色が赤くなり、薔薇色の名前に変わっている。


「ひッ!!」


 服の絵も濃い赤色1色になっていた。

 徐々に視界が赤く染まっていく。

 薔薇色しか目には映らず、身体中が火で炙られるように痛み始めた。


「やだ! やめて!」


 その場にしゃがみ込み痛みだす身体を手で必死に押さえていた。

 その時、誰かが。


「サヨリ大丈夫?」

「きゃああああああ!?」


 いきなり背中を叩かれ、叫びながら転がってしまう。


「か、カナ!?」

「どうしたのそんなに慌てて」


 見ると友人のカナがそこにいた。

 視界は元に戻り、はっきりと周りが見えていた。

 立ち上がり描いてた絵を見ても元に戻っていて、色鉛筆も薔薇色なんて色はなく青や黒に戻っていました。

 白昼夢?

 そう思ったのですが、あまりにもリアルな体験だった為、心臓の音が耳の中で鳴り止みません。


「ちょっと……サヨリ」

「は、早くここから出ようカナ」


 私は画材一式を片付け、カナの手を引っ張り部屋を後にしました。



ーー



 部屋を出た後、逃げたかった私は勢いで大学の外まで出てようやく落ち着き大きなため息を漏らしました。


「……はぁ~」

「さっきから大丈夫? 何かあったの?」

「あったなんてものじゃないよ……」


 私達は冬空の下で歩きながら、カナにさっきまでの色鉛筆の色が変わり視界もおかしくなる現象を伝えました。

 カナは眠そうな顔をしながらも話を聞いてくれました。


「さっきのはなんだったんだろ? もしかして幽霊? それとも色鉛筆が呪われてるとか?」

「疲れてたんじゃん?」


 私の焦りとは裏腹にカナは現実的に答えてきました。


「最近、単位ギリギリかもーって言って1人で勉強してる事多かったじゃん? しかもバイトも始めたんでしょ?」

「う、うん……お小遣いほしくて……」

「絶対それ。幽霊や呪いなんてあるわけないし、もしあったとしてもサヨリが誰かに恨まれる事なんてないでしょ?」

「うーん……」


 確かに誰かに恨まれる事はしたことないはずだけど、なんだか腑に落ちない。

 でも、確かにカナのいう幽霊とか非現実的なものより、日常の疲労で見た白昼夢の方があってる気がしてきた。


「サヨリ、信号赤だよ」

「うわっと!」


 よそ見をしながら歩いていていつの間にか横断歩道の手前まで来ていた。

 その時、


「ッ!!」


 目の前に物凄い勢いで車が走り抜けていった。車が通行して良いからって法定速度を守っていない速さで通過していった。

 ……まだ私は免許を持っていないけど。


「あれ?」


 ふと横断歩道の歩行者用信号を見て違和感を覚える。

 信号は赤く点灯していたが

 目を擦って見直すと通常通り青く点滅して、普通の赤信号で人が止まったマークに変わった。


「カナ……や、やっぱり疲れてるみたい」


 冷や汗が額に垂れてきた所で、


「サヨリイイイイイイ!!」


 と、後ろから誰かが走ってくる。振り向くと走ってきたのはなんとカナでした。


「え!? カナ!?」

「サヨリ、もう皆心配したんだよ! とりあえず無事で良かったぁ……」


 息を切らせて汗だくのカナが目の前にいる。


「え? え? なんで走って……いや、さっきまで一緒に歩いて……」

「はぁ、はぁ……何言ってんの……私ずっと大学の中を走り回ってサヨリの事探してたんだけど!」


 とりあえず、カナに飲み物を渡すと彼女は落ち着いたけどそれでも慌てた様子のまま話を始める。


「サヨリが1人でデッサンの課題やるって言ってた講義室……今ボヤが起きてて大騒ぎになってるんだよ」

「え……」


 頭の中が真っ白になった。

 数分前に部屋から飛び出したばっかりで、そんな予兆なかった。

 ……いや、起きてる。

 変な出来事はずっと起きていた。

 さっきまでいたはずのカナは消えて。

 青信号が赤くなっていた。

 身体は痛み。

 視界も見えなくなって。

 怖くて逃げ出した。

 色鉛筆も薔薇色に変わっていた。


「サヨリが校舎から出ていったって話を聞いたから急いで追いかけて来たんだよ私。はぁ~とりあえず、無事で良かった! 一旦落ち着く為に近くの喫茶店に行こう! 皆にも無事だったって報告しなきゃ」

「う、うん……」


 私はもう一度振り返り、横断歩道の信号機を見る。

 そこにはいつもと変わらない青く光る信号機があるだけだった。





         完






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