第4話
「本当にありがとう」
と萌の母は、
「いえ、私は何もしていません」
と蓮宮は笑顔を見せて謙遜し、その場を離れると、
「これで、一つは解決したわね。でも、まだ終わりじゃないわ」
と山岸に言った。
「他には何をするの?」
山岸が聞くと、
「決まっているわ。あの場所に行って、真相を確かめるのよ」
と蓮宮が答えた。
「え? 廃校舎へ?」
山岸はもう二度と行きたくはなかった。しかし、この事を依頼した時、蓮宮にはこう言われていた。最後まで付き合ってもらうと。そして、それを自分は了承した。
「分かったわ。でも、このお守り、もう一度私を助けてくれるかしら?」
と山岸が不安を口にすると、
「お守りをもう一度見せて」
と蓮宮が言った。
「うん」
山岸がポケットから出して見せると、
「これ、もう駄目ね。もう一度、同じものを手に入れて来て。今夜決行するから、午後の七時に校門の前に来て」
と蓮宮は言った。
午後の七時、二人が時間通りに集まると、
「それじゃあ行くわよ」
蓮宮は閉められた校門をよじ登って中へ入った。山岸もそれに続くと、二人は真っ直ぐと廃校舎へ向かった。
「ふ~ん。そういう事ね」
と蓮宮が納得したように言った。
「何か分かったの?」
山岸が聞くと、
「これ、生霊よ。斎藤さんに憑いていたのも多分、生霊。死んだ者の魂よりも厄介なのよね」
蓮宮は平然と言った。
「どうするの? 蓮宮さんって、霊感あるの?」
「あるって言っておくわ。除霊は出来ないけど。この生霊たちはね、この場所にまつわる噂に恐怖を覚えた者たちよ。ここには死者の霊なんてないし、噂も全部嘘よ。馬鹿々々しいわ。こんな戯言を信じて恐怖を感じている連中、本当に馬鹿みたいだわ。さてと、始めるわよ。私が言った物を持って来た?」
蓮宮が聞くと、
「うん、でも、これを何に使うの?」
と山岸は怪訝な表情を浮かべる。言われて持って来た物は、まるでホームパーティでもするかのような飾りだった。
「それじゃあ、始めますか」
蓮宮は並んだ教室の一つを選んで入って行くと、持って来た照明器具を配置して点灯した。一気に教室は明るくなった。
「さあ、それを飾って」
蓮宮はそう言って、山岸の持って来た物を飾り付けた。それから、
「ねえ、あなた達、ここは私たちの遊び場よ。邪魔だから出て行ってくれないかしら? そんな陰気臭い顔して、こっちを見ないでくれる?」
と生霊たちに声をかけた。山岸はおどおどしながら、蓮宮の腕にしがみついて、
「そんなこと言って大丈夫なの? 怒られない?」
と囁き声で言った。
「何言ってんの。あんなの平気よ。あなたも怖がる必要ないじゃない。ほら、遊びましょうよ」
蓮宮はそう言って、スマホを操作して陽気な音楽を流し、クラッカーを派手に鳴らした。もうそこには静けさは無くなり、派手なパーティー会場となった。すると、そこら中に居た生霊たちの気配が一つ、二つと消えていく。寒々しさが引いていき、初夏の蒸し暑さが戻って来たのが、霊感の無い山岸にも肌で感じることが出来た。楽し気に笑っている蓮宮の横顔を見ていると、山岸も怯えていた事が馬鹿々々しくなり、一緒になって、二人だけのパーティーを楽しんだのだった。
翌日、蓮宮と山岸は学園長室に呼び出され、夕べの行為を厳重注意された。
「あら、学園長。私たちを注意するなんて、お門違いだわ。あそこに何が居たか、学園長はご存知だったのかしら? 今まで何度も除霊していた事は知っているのよ。それでも、あそこにはまだ居たのよ。除霊できていなかった事は、先生方も知っていたのでしょう? そして、先日、あの場所へ行った他校の生徒が憑かれてしまった。それはご存知でしたか? あのまま放置していたら、きっと、
と蓮宮はそう言って、学園長を諭し、
「私が学校新聞で、その事実を公にするわ。そうする事で、あの場所には悪霊は居ない。安全であると知らしめることが出来るのよ。だから、記事にすることを許可して頂きたい」
と付け加えた。学園長は、頭を抱えて暫し考えてから、
「分かったわ。許可しましょう」
と観念したように言った。
「蓮宮さん、私、一つ疑問があるのだけれど」
と山岸は前置きして、
「藤崎さんと吉川さんが記憶を失くしているのって、原因は何か分かる?」
と蓮宮に聞いた。
「知らないわ。二人が本当に記憶を失くしたのか、思い出したくないだけなのか。いずれにしても、私には関係ないし興味もないわ。あなたも、そんな細かい事、気にしない方がいいわよ」
蓮宮はそう言って、山岸の疑問を振り払うかのように言った。冷たいようにも思えたが、それは蓮宮の気遣いだったのかもしれないと、山岸はこれ以上、その事について考えることを止めた。
その後、学校新聞が掲示板に貼られた。
『廃校舎の呪い』完全排除に成功した。と題した学校新聞の前には、多くの人だかりが出来ていた。
了
女子高生蓮宮玲子の怪異ミステリー『廃校舎の呪い』 白兎 @hakuto-i
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