第4話 ギャップ萌え?
二本松紗香こと、フタナリ娘が入居してきた次の日。
彼女は早速配信をはじめていた。
「まだ段ボールを片付けていないはずなのに、すごい執念だ」
実際、配信の最初にボヤいていた。
独り言を言いながら、その配信を眺めている。
彼女は引っ越ししたこともを嬉々として語っていて、いい環境に引っ越しできたこともファンのおかげだとお礼を告げている。
『本当にいつもありがとう』
本当にうれしそうで儚げな声だった。
リアルで会話するときとは声のトーンや話し方が違う。
身バレ対策でもあるのだろう。
オレの部屋は5窓まで対応できるように環境を構築している。
〇窓とは、配信を同時に閲覧することを言う。窓とはブラウザのウィンドウの事を示しているのだ。
一時期VTuber界隈を盛り上げるために切り抜き動画をあげていたから、その名残で複窓環境を整えている。
今のオレには、まだ5窓が限界。一度に5人のVTuberの配信を追うことしかできない。
まだまだ修行が足りない。
1つはブイックスを見るために使っているから、モニターは合計6つ。
その中央上部に、二本松さんの配信を流している。
「大丈夫かなー」
どうしても不安に感じてしまう。
いつ昨日みたいな彼女の一面が現れてしまうのか。
だけど、見ているうちに杞憂だったとすぐに理解した。
『安心してね。リスナーのみんなのことは裏切らないから』
VTuberとしての顔と、同人作家として顔をきっちり使い分けている。
配信内では、フタナリの『フ』の文字すら出てきていない。
配信中の彼女はオドオドしていて庇護欲を引き立てられるのに、。
好きなことをひた隠しにしているのだけど、それが逆に儚さや不思議さを演出しているのかもしれない。
「それにしても、トークうまいなぁ」
少し聞いているだけでも、ひしひしと感じる。
理路整然としているのだけはなく無軌道なところがあるのだけど、それが面白さを作り出している。計算ではなくて本人の気質によるものなのだろう。
ふと、二本松さんのVTuberアバターに目が留まる。
かわいらしい天使のアバター。
高校生ぐらいの見た目で、小動物のようにかわいらしい。
本人や声質とマッチした見事なキャラデザだ。
さらには、動きの躍動がすごくて表情も豊かだ。
パパ、ママともにかなり恵まれている。
VTuberのパパ・ママとは、ママは『キャラデザインしてくれたイラストレーターさん』、パパは『動けるようにモデリングしてくれた人』である。
「天使かぁ」
彼女の趣味を知っていると、ついつい勘ぐってしまう。
天使と言えば無性であると言われている。転じて両性具有を解釈されて、フタナリとして描かれることが多々ある。
ふいに、フリフリのスカートを凝視してしまう。
その中は生えている設定なのだろうか。フタナリなのだろうか。タマナシなのだろうか。
怖くてたずねる気にもなれない。
身震いしていると、二本松の配信は無事に終わった。
「まあ、お酒が入らなければ大丈夫なのかな」
今はまだ、大丈夫そうだ。
彼女は、リスナーに自分の性癖を隠している。
これが1週目で二本松さんが炎上した原因だった。
ひょんなことで飲酒配信をはじめて、それで色々と話してしまったのが発端だ。
オレの玉ナシおちんちんを観察したいとか愚痴も言っていた。
ドギつい普段のギャップに、リスナー達は大困惑。
ネットはお祭り騒ぎ。
さらには、フタナリをバカにされた二本松さんは逆上して火に油を注いでしまったのだ。
ギャップ萌えという言葉があるけど、限度というものがある。
もう同じ炎上をしないように対策しないといけないだろう。
一度時間が巻き戻ったからと言って、もう一度巻き戻るとは限らない。
絶対に今回で炎上を阻止しなくてはならない。
「……ギャップ、か」
ギャップ萌えと言えば、もう一人ギャップが酷い人がいる。
ちょうど明日入居してくる人物。
オレとしてはできる限り会いたくない、きまずい相手だ。
特殊な性癖を持って――持ってはいるけど、オレと相性が悪いわけでもなければ喧嘩をしたこともない。
相性はいい方だろう。
年齢も近くて気軽に話すこともできるし、一緒にいて気楽な相手だ。
それでも、できれば会いたくない。
今思えば、あの時期は人生1度目の絶頂期だったかもしれない。
2度目はもちろん、推しに出会えた時である。
1度目の絶頂期当時のオレに、今の状況を話したら絶対に呆れられるだろう。
懐かしい。
あれからもう15年か。
高校に入学してすぐ。
葉桜の下である先輩に告白して、オーケーをもらえた。
青春の1ピース。
今思い出すだけでも、お尻がムズ痒くなってしまう。
次に入居してくるVTuber――
彼女は、高校時代の
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炎上ループ完備、VTuberマンションをはじめました! ほづみエイサク @urusod
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