8
「ごめんな」
あやかちゃんちから帰る途中、正気に戻ったお父さんが肩を落として呟いた。
「しょうがないよ。まさかあやかちゃんがヌッコリョッケを飼ってるだなんて思わなかったもの」
ぼくはそう言って慰めたが、あれはどう見ても血統書付きのペルシャ猫だと思った。
「あれはヌッコリョッケよ。そうじゃなきゃこれが反応するわけないもの」
ママがぼくの脳内を読み取ったような発言をした。
(そうなのか。なら、あやかちゃんにあれは猫じゃないって伝えた方がいいかな)
そんなことを考えていると、
「ああ面白かった。いいもの見れたわ」
ママはひとり満足した様子で煙草の箱を弄んだ。吸いたくて仕方ないらしい。
ぼくはお父さんを見上げた。
「傷、治るといいね」
「そうだなぁ。この顔で……明日から仕事どうしようかなあ」
お父さんは途方にくれたように――といってもあやかちゃんがこっそり貸してくれたパパの野球帽を深くかぶっていたのでその顔は見えなかったのだが――呟いた。
(顔面がぐちゃぐちゃだろうが別にかまわないや。大事に育てたぼくだけのお父さんだもの)
ぼくはお父さんの大きな手をぎゅっとにぎった。
―完―
お父さんの種 うろこ道 @urokomichi
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