あやかちゃんちはここらへんでは高級住宅地といわれるところの一角にあった。二階建ての、白くて大きいお家である。

「……いらっしゃい」

 呼び鈴を押すと、あやかちゃんがむっつりとふてくされたような顔で玄関ドアを開けてくれた。

 玄関であやかちゃんのパパとママが出迎えてくれた。二人とも満面の笑みである。

 お父さんも満面の笑みで挨拶を返していた。一方ママは不機嫌そうな――あやかちゃんと同じ顔をしている。

「さあ、どうぞあがってください。みつるくんにはいつも彩花が仲良くしてもらって。一度お誘いしたいなあって思っていたんです」

 あやかちゃんのパパがお父さんに言った。この流れからどうやって融資の話にもっていくんだろう――ぼくはなかば他人事のような気持ちでスリッパを足先にひっかける。

 その時。ちりりん、と涼しげな鈴音がした。

「あ、ココ、出ちゃだめよ」

 真っ白の毛玉が廊下をまっすぐに駆けてきた。金色の目のペルシャ猫だった。

(まずい)

 ぼくはとっさにお父さんに目を向けた。

 お父さんは別人のようにスッと無表情になると、見たことのない速さでココを捕まえた。

 ココは殺気を感じたのか、しっぽが倍ぐらいの大きさに膨れあがった。

「お父さん、食べちゃだめ!!」

 ぼくはお父さんの脚にしがみついた。すでにかぶりつかんとココに顔を寄せていたお父さんは、体勢を崩す。その隙をついてココはカーッと牙を剥きだし、お父さんの顔面をばりばりと引っ掻いた。

 お父さんの顔は縦にびらびらに裂けた。にもかかわらず血は一滴も出ず、肌色の破片が鉛筆の削りかすのように足元にぱらぱらと落ちた。

(お父さん、こんなに柔らかかったんだ)

 あまりのことにあやかちゃんのパパは尻もちをつき、ママは蒼白になって倒れた。ただ、ぼくのママだけは面白そうに笑っていた。

 ココはパパの手からぬるんと抜け出ると、あやかちゃんの腕に収まった。

「人んちの猫、食べようとしたの? みつるくんのパパ、マジで最低」

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