白の騎士・赤の騎士

 今回の標的は総理大臣だ。ということは、向かう先は国会議事堂だろう。

 俺たちはタクシーを呼び止めて、永田町へと急がせた。


 そうしている間に、国会での様子が複眼に映る。


 いつもよれよれのスーツを着ている山本やまもと壮藏そうぞうが真っ白なパリッとした真新しいスーツに身を包んでいた。

 まったく似合っていない。そんな感想もあるが、しかし、奇妙な迫力がある。ある意味では様になっているというべきなのかもしれない。


 山本は国会議員たちを前に宣言した。


「私は今日から総理大臣ではない。ましてや、国会議員などでもない。

 これより支配を司る白騎士を名乗らせてもらおう。貴様らは、いや世界人類はこの私に従うのだ」


 そう言いながら、自分の胸元の近くを撫でるような仕草をする。そこには、いつの間にか雪豹ユキヒョウが姿を現していた。

 雪豹は吠える。その雄叫びを聞くと、議員たちは皆山本の前にひざまずいた。

 山本は悪魔の力によって「支配」の力を得ていたのだ。


 だが、その中には従ったふりをしながらも、その魔力に捕われていないものもいる。

 紗季の父であり、外務大臣である笹垣ささがき弘毅こうきだ。笹垣弘毅は山本をめ上げながら、周囲に聞かれないように呟く。


「くくくっ。昼行燈ひるあんどん傀儡かいらいと思っていたが、悪魔を扱えるようになったか。さあ、どうするんだ。面白ぇ見世物を期待してるぜ」


 そう言って、秘かに笑った。

 しかし、次に出てきた山本の駒は笹垣弘毅にとって見覚えがある。


「そして、この国の軍事力を一手に握るのは彼女だ。その雄姿を讃えてくれないか」


 その言葉によって、支配された議員たちは拍手をもって迎えた。


 それは深紅のドレスに身を包んだ少女である。レースで編まれたバラによって彩られ、幾重にも重なったフリルが上品さを演出していた。

 その頭にも薔薇が飾られたカチューシャがあり、ストレートのロングヘアが揺れている。

 少女は緊張した印象もあったが、意を決して話し始めた。その喋り方は初々しいというか、子供らしさを無理に抑えたようなものだ。


桐里きりさと樹梨花きりかです。戦争を司る赤の騎士として、私の力でこの国の敵をすべて撃ち倒すことを約束しましょう」


 それは、まさしく桐里樹梨花だった。紗季の同級生であり、彼女のいじめの主犯であり、笹垣弘毅のビルに盗みに入った、あの樹梨花である。


 その隣には三つの赤い光が輝いていた。その光に照らされ、黒い人影が露わになる。黒いスーツに赤い宝珠の嵌ったループタイ、そして、赤い両眼。神の敵サタンであった。


「ふっふっふっふっふ、樹梨花よ、お前の望むまま、殺戮の限りを尽くすがいいぞ。さあ、戦え。お前の望むままに……」


 サタンがその魔力を漲らせ、辺りに異様な緊張感を放ちながら、そう言って笑う。

 また、その傍らには見慣れぬ悪魔がいた。青白い狐がこの世の終わりのような表情で佇んでいる。

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2025年1月10日 17:00
2025年1月11日 17:00

社畜のおっさんが悪魔の力に目覚め、女子小学生に召喚されて使役される話 ニャルさま @nyar-sama

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